東京証券取引所の奇妙な発表

 やや旧聞に属すのですが、東京証券取引所が11月24日に、以下の発表をしています。まず、報道されている内容をそのまま書きます。

 「東京証券取引所は、大型公募増資の発表直前に大量の空売りが相次いでいる事例を受け、情報漏れへの監視強化やカラ売りに対する新たな規制を、金融庁と協議しながら検討すると発表しました。売買代金の7割前後を占める海外投資家への信頼性を高めるためです。」

 確かに最近の例でも、国際石油開発帝石東京電力日本板硝子など、増資の発表前後から大量の空売りで株価が急落するケースが相次いでいます。この辺のからくりについて本誌は「エクイティファイナンスの裏側」シリーズとして10月14日(東京電力)、同16日(武富士)、同17日(三大メガバンク)、及び11月8日(りそな銀行)で、かなり詳しく書いてありますので、是非読み返してみてください。

 ここに書いてあるのは、全て「いかに海外投資家のみに儲ける機会を提供しているか」なのです。

 上記の報道文に戻るのですが、読んでみて非常に奇妙な感じがします。

 まず、公募増資の発表直前に大量の空売りが出る、と言うのは明らかにインサイダー取引であるため、わざわざ規制しなくても、とっくに金融商品取引法違反となり立派な犯罪ですから、どんどん取り締まればよいだけです。

 ところが、公募増資発表前に海外投資家だけに需要調査が認められているのです。例えば「東京電力が新株を発行したら買ってくれますか?」なんて聞かれたら、普通は増資があると考えるものです。この場合の海外投資家と言うのは、いわゆるヘッジファンドです。だから海外投資家(だけ)は事前に公募増資があることを「知らされる」のです。

 もうひとつ、どうも新たに取り締まろうと思っているのは「空売り」だけのようですが、海外投資家(くどいようですが、ヘッジファンドのことです)が行うのは「借株」を調達して売却することで、これは「空売り」には当たりません。さらに、この「借株」は国内投資家には認められていません。つまり新たに空売り」規制の対象になるのは国内投資家だけなのです。

 「空売りに対する新たな規制」というのは、海外のルールにある、「公募増資の発表後、値決め前までの5営業日に空売りをした投資家は、増資株の割り当てを受けられない」のことを考えているようですが、海外投資家は、そもそも日本で発行される株式については、このルールが適応されないため、この規制が新たに日本で導入されたら、国内投資家のみに適応されることになるはずです。

 つまり、すでに十分海外投資家のみが儲ける機会を得ている国内の公募増資について、さらに国内投資家のみに対する規制を強化するということなのです。

 報道の最後にある、「海外投資家に対する信頼性を高めるため」と言うのは、もうブラックジョークとしか言いようがありません。

 つまり、東京証券取引所金融庁と協議しながら、「そうでなくとも優遇されている海外投資家(くどいようですがヘッジファンドのことです)には、今まで通り儲けてもらい、そうでなくとも不利な状態に置かれている国内投資家に対する規制をますます強化し、そうすることによって海外投資家(ヘッジファンド)からの信頼を得よう」としているのです。まさにブラックジョークです。

 ヘッジファンドは、証券会社(これも外資系証券会社が普通海外分の幹事に選ばれます)から「需要調査」という名にインサイダー情報を得て、大急ぎで借株を調達して売却し、十分価格の下がった公募株の割り当てを受け、借株を返却して利益だけ得ます。

 つまり、ヘッジファンドは公募の発表前も、公募の払い込み後も「その会社の株主」ではないのです。ヘッジファンドの儲けは、株価が値下がりした「その会社の株主」が負担していることになります。

 「その会社の株主」には(ヘッジファンドではない)外人投資家も含まれるのですが、今回の東京証券取引所の発表では、ますます海外投資家に対する不公平感が増すばかりです。

 これに限らず、日本の金融行政には、なぜか海外投資家のみを優遇することが非常に多いのです。この辺のことはまた本誌で取り上げていく予定です。