確信犯のドル安

 4月27日にバーナンキFRB議長が記者会見し、6月末に6000億ドルの国債買い入れによる量的緩和を終了するも、償還期限の来た国債や住宅ローン担保証券の再投資は続け(住宅ローン担保証券の再投資も国債で行う)、長期間(extended period)にわたって金融緩和は続けると発表しました。

 今後も長期間にわたって金融緩和を継続し、米国経済(特に株式市場)の回復を最優先に考える、という強い意思が感じられます。

 事実、発表受けて米国株式は上昇し、先週末の4月29日には12810ドルとリーマンショックの前の水準をほぼ回復しています。

 米国経済、特に個人消費は米国株式の状況により大きく影響されるものなので、米国株式が上昇すれば米国経済が回復するものなのです。今年の実質GDPは3%程度の成長が期待できるようです。

 「強いドルは米国の国益」とも「深刻な長期債務は米国が直面する最大の経済問題」とも、一応はドル安と財政赤字に対して注意を払っているようですが、米国としては「経済回復」を最優先に考えると言う明確な意思表示なのです。

 つまり米国は、ドル安も財政赤字も海外の資源高も気にせず、景気回復のための金融緩和を継続しますよ、と明確に発言したのです。

 事実、4月29日には1ユーロ=1.48ドル台、1豪ドル=1.096米ドル台、1ドル=0.86スイスフラン台と、ドルはユーロを除けば歴史的安値をつけています。対円でも81.17円と再び円高になってきています。

 米国企業の業績は、1~3月は予想を上回る18%程度の増益となったようです。国内の消費増加とドル安の恩恵です。増益によってさらに株価が上昇し、それが消費の増加を通じてさらに増益となるという好循環に入っています。

 さらにドル安によって、米国株相対的に割安となり、海外からの投資も活発になります。

 つまり、米国経済にとってドル安の弊害は、原油価格の上昇によってガソリン価格が上昇することくらいなのです。

 つまり、確信犯のドル安が続きます。

 ここでリーマンショック以降の米国の金融緩和が、いかに強烈なものだったかを説明します。

 まず、現金通貨と中央銀行への預け金の合計をマネタリーベースと言い、それをもとに信用創造が行われて経済が大きくなっていくのですが、マネタリーベースは2000年当時6000億ドル台、2008年のリーマンショック直前は8000億ドル台でした。

 それがリーマンショックから半年で1兆8000億ドル台と倍以上になり、昨年11月からの追加金融緩和でさらに増加して2兆2000億ドル台になっています。いかになりなりふり構わず資金を供給しているかがわかります。逆に言えば、それでかろうじて米国経済の失速を防いだのです。

 世界的なドル需給を示すのに、この米国のマネタリーベースに各国中央銀行の米国債保有高を加えたワールドダラーが使われます。

 そのワールドダラーは、2000年当時1兆5000億ドル台、リーマンショック直前が2兆3000億ドル台でした。この増加分が世界の流動性の増加だったのです。

 直近のワールドダラーは4兆8000億ドル程度と思われ、リーマンショック後2倍になっています。やはりあふれかえったドルが資源高を引き起こし、中国、ブラジル、インドなどに流れ込んでいるのです。

 為替相場は単純な需給関係で決まるもので、供給が多いドルの値段が下がるのです。そして「ドルの供給はこれ以上増やさないまでも、あふれかえった残高は減らしませんよ」と明確に言ったのが、今回のバーナンキなのです。

 お墨付きをもらったようなもので、ヘッジファンドなどは安心してドル売りを続けることができます。とくに量的緩和の完全終結(つまりFRBが供給した資金を引き上げ始める)の予想もあったため、ヘッジファンドなどのドル売りポジションが減っていたようなので、更なるドル売りポジションが積みあがってくると思われます。

 米国は今回の決定に際し、メリットとデメリットを慎重に比べ、米国の国策を優先して行った決定なのです。行政機関が自国の国策を最優先に考えると言う、きわめて当たり前のことをしたのです。

 翻って、その当たり前のことができない日本はどうすればよいのでしょう。
何もできないと思うから何も期待しないのですが、そうは言っても国策を優先した政策が必要なので、次回は「とりあえず、こうすべき」を考えてみたいと思います。