中国の世界制覇作戦

 日本・米国・ユーロ圏すべて難しい経済運営を強いられています。

 難しい経済運営という意味では中国も同じなのですが、中国の場合は圧倒的に有利な立場にあります。

 まず人民元の相場は、アジア危機のあった1997年7月以降、1ドル=8.28元近辺でずっと固定されていましたが、2005年7月から元の対ドル相場を緩やかに上昇させることを認めました。しかし、2008年7月に金融危機が起こると1ドル=6.82元近辺で再び固定させ、2010年5月までそのままでした。

 2010年6月に「元相場の弾力化」を表明し、再び緩やかな元高が続き、直近では1ドル=6.48元台となっています。

 しかし、いくら弾力化といっても、2010年6月以降の対ドルの上昇幅は5%程度であり、2005年7月から数えても22%程度です。

 この間、円の対ドルの上昇幅はもっと大きいため、元は対円では現在1元=12.35円程度と史上最安値となっているのです。

 一方、中国の外貨準備は2001年に2000億ドルに乗せ、2003年に4000億ドル、2005年に8000億ドルと増え、2006年に1兆ドルを超えて日本を抜いて世界最大となりました。

 その後も、2009年6月に2兆ドル、2011年3月に3兆ドルを超えました。驚くべきことは、いくら外貨準備が巨額になっても、また多少とはいえ元高が進んでも、増えるスピードはほとんど落ちていないことです。

 しかし、2009年、2010年とも中国の貿易黒字は2000億ドル未満で、2011年1~3月は貿易赤字だったようで、中国の厳しい外為管理をかいくぐって巨額の資本が海外から流入していることになります。

 中国の為替政策の巧みなところは、特に2005年まではこの明らかに割安な元の水準と、安い国内労働力を使って貿易黒字を溜め込みました。元の切り上げ圧力を巧みにかわしていたのです。

 これに対して金融危機以降のここ2~3年は、世界の経済不振と中国国内の購買力の向上で貿易黒字が減少し始めると、巧みに元の先高観を世界に広めることによって、世界から投資資金を引き寄せているのです。

 貿易黒字による外貨にしても、海外から流入した外貨にしても、すべて中国人民銀行(中央銀行)が買い取り、見合いの巨額の元を国内に放出しているのです。

 つまり、中国政府は巧みな為替政策により外貨をため込み、それを全て人民銀行(中央銀行)が買い上げることにより巨額の資金を国内に供給し、外国資本を使って脆弱だった国内資本を充実させたのです。

 もうひとつのポイントは、外貨を全て人民銀行(中央銀行)が買い上げることにより、本来は民間が負うはずの為替リスクを全て政府が肩代わりしたのです。

 これは、日本がようやく経済が独り立ちし始めた1971年以降、常に円高圧力と戦い、しかもそのリスクは全て民間が負って疲弊していったのと大違いなのです。

 このまま、ゆっくりとした元高を続けていく限り、ますます元の先高感と中国経済の発展性が評価され、外貨が流入し続け中国国内の一層の資本充実と経済発展が進むのです。

 さらに、豊富な外貨準備を使って世界中への資源外交や、中国のプレゼンスを上げる外交を続けることができるのです。

 もちろん問題は、膨大な資金が国内に放出されることによるインフレですが、今のところ巧みな金融引き締め(正確に言うと、巨額の元の国内放出をほんの少し絞ることによるアナウンスメント効果)により抑えています。

 更なる物価安定が必要となると、もっと元を切り上げればよいのです。

 もうひとつの問題は、将来の元切り上げによる巨額の外貨準備の評価損です。

 しかし、中国の目的は外貨を流入させることによる国内資本の充実にあるため、将来の外貨準備の評価損も国家のコストとして割り切っているのだと思います。

 つまり、最初から元高なら評価損は心配しなくてもよい代わりに、外貨が流入せず、国内資本も充実できなかったのです。

 このままでいくと、あと2年くらいで外貨準備は5兆ドルくらいになると思われます。その時は、国内資本はもっと充実しており、中国政府の世界における発言力はもっと向上しているはずです。

 まさに、共産主義国家による資本主義経済征服のシナリオです。