最強のヘッジファンド・ポールソンの変調

 先日、ジョン・ポールソン氏が主宰するヘッジファンドのポールソン・アンド・カンパニーが、6月前半に運用資産の13%にも上る損失を出したという報道がありました。

 どうも、今年に入ってからの累計損失が運用資産の20%にも上っているようです。

 ポールソン・アンド・カンパニーはサブプライムローン関連商品の空売りで巨額の利益を出したことで知られ、昨年も金のポジションで引き続き巨額の利益を上げていました。

 ジョン・ポールソン氏の個人所得も、昨年49億ドル(4100億円。ファンドの儲けではなく個人の所得です!)で業界第1位となり、ここ数年は高額所得上位の常連でした。

 4月11日付け「ヘッジファンドの巨人たち」をご参照ください。

 今年になっても巨額の「金」のポジションを維持しており、引き続き絶好調と思われていた矢先の損失報道です。

 直接のきっかけとなったのは、トロント株式市場に上場している中国企業・嘉漢林業(シノフォレスト)の株式の19%を保有していたのですが、どうも売り上げや資産内容が不正確に計上されていたようで(要するに粉飾)株価が80%以上の急落となり、ポールソンは傘下のファンドで保有していた全株を売却し4億6000万カナダドル(380億円)の損失を出したことです。

 もっとも、この粉飾を見つけ出したのが、空売り専門のヘッジファンドのカーソン・ブロック氏だったようで、こちらのほうは逆に巨額の利益を上げたのでしょう。

 しかし、ポールソン傘下のファンドの運用資産の合計は370億ドル(3兆円)くらいあり、6月前半だけで13%を失ったということは約4000億円位の損失が出ているはずなのですが、嘉漢林業の損失はその1割位にしかなりません。

 同時期にシティやバンカメなどの銀行株の値下がりでも巨額の損失が出ているようです。イベント・ドリブン型のポールソンが、どのようなイベントを期待して銀行株を大量に保有していたのかはわかりませんが、たぶん金融危機後の銀行株の急落時に買い込んでそのまま保有していたのでしょう。

 同じく金融危機後に急落した銀行株を大量に買い込んで巨額の利益を出したアパルーサ・マネジメントのデビッド・テッパー氏は、本年3月ころに銀行株を大量に売却していたようです。 テッパー氏の個人所得も、2009年は40億ドルで業界第1位でした。

 これらは、いくつかのことを示唆します。

 まず、世界的に中国経済や中国株式に対する取り組みが慎重になります。慎重になるだけでなく、特に米国市場で上場している中国企業はヘッジファンドを中心にした猛烈な「空売り」の対象になり、株価が乱高下して新たな犠牲者が出るはずです。

 その次は、以前から何回も書いているのですが、世界的に金融市場が不安定になります。これは世界経済の状況が悪化しているにもかかわらず、投資資金が潤沢であるため、まだ本格的な相場の変動(値下がり)が起こっていません。しかし、何かのきっかけで急激な資金の引き揚げや移動が起こり、相場が急変する可能性が強くなるからです。

 まあ、ポールソンのように3兆円もあると、簡単にポジションを変更する事も出来ず、巨額のポジションを維持せざるを得なくなるものなのです。

 しかしひとたび運用成績が悪化すると、最強のヘッジファンドであるポールソン・アンド・カンパニーも例外ではなく、急激な資金の引き揚げに見舞われることになります。そうすると、例えば「金」の巨額ポジションも売却しなければならなくなり、新たな混乱が引き起こされるのです。

 ヘッジファンドすべてについて言えることなのですが、運用成績が一度でもマイナスになると、そのマイナスを埋めてからでなければ次の運用報酬(普通値上がりの20%)がもらえません。そうなると運用者としても急速にモチベーションが低下し、いきおいファンドを解散してしまうことがあるのです。そうなると、やはり大量のポジションが現金化され、さらなる混乱を招くのです。

 6月6日付け「ヘッジファンド資産残高拡大が意味するところ」でも書いたのですが、現在のようにヘッジファンドの残高が急拡大していることは運用の質の低下と裏腹で、新たな混乱の要因となるのです。

 前回残高が最大となった2008年6月の直後にリーマンショックが起こったのです。