大物スパイの話

 たまには変った話題にしてみようと思います。

 冷戦は終ったのですが、いまでも(日本を除く)先進国は諜報活動に莫大な資金と人員を割いています。その活動は、しばしばその自国の国民にも知らされていませんし、政府内でも秘密になっていることが多いのです。

 今日は、その中でも突出して莫大な予算と人員を持つ米国の諜報活動が、たった1人の裏切りで壊滅的な被害を受けた例を2つご紹介します。

 ひとりは、1994年に逮捕されたCIA上級職員のオルドリッチ・エイムス(Aldrich Ames)です。

 エイムスは1985年ころから、冷戦真っ盛りのソ連のKGBに、あろうことかCIAが運営するソ連のスパイの名前を16人も教えたのです。貴重な米国の情報源がソ連内で次々に逮捕され処刑されました。また、それ以外にも計り知れない貴重な情報をKGBに渡しました。

 エイムスはCIAの中で対ソ連のスパイ活動を統括する部署におり、逮捕された直前の肩書は対ソ連諜報統括本部長でした。まさに二重スパイだったのです。

 エイムスの動機は、イデオロギー的なものは一切なく、単に金だったようです。エイムスは同じワシントン市内にあるソ連大使館に堂々と歩いていき、情報提供と見返りの要求をしました。

 見られていてもエイムスのCIA内のポストから、全く怪しまれなかったようです。

 しかし、身内のそれも対ソ連諜報のど真ん中にスパイを長年抱えて、原爆級の被害をもたらされているのに9年も気づかなかったCIAは大いに批判されたのですが、誰もクビになりませんでした。

 それどころか、数多くの米国のために働いていたソ連のスパイを処刑させたエイムス自身は、死刑を免れ仮釈放なしの終身刑で服役しています。ソ連にもたらしたものがあまりにも多く重要なので、死刑にするより情報源として確保しておかなければならないのです。

 もうひとりは、2001年に逮捕されたFBIの特別捜査官ロバート・ハンセン(Robert Hanssen 間違いではなくsが重なります。北欧系なのでしょう)です。

 ハンセンの専門はコンピューターで、これも1985年ころから莫大な予算を掛けて完成した数多くの諜報・防諜システムをソ連のKGBなどに流していました。

 ハンセンの動機も金だったようで、合計で160万ドルほどの報酬を15年ほどの間に受け取っていたようです。

 もっともFBIがハンセン逮捕のきっかけとなった、ロシアの協力者からのテープ(その中にハンセンのものと思われる肉声が入っていた)を買った金額が700万ドルでした。

 ハンセンも、エイムスと同じ理由で死刑を免れ仮釈放なしの終身刑で服役しています。家族には、職務で死亡した場合と同じ年金が支払われているそうです。

 この事件は、「アメリカを売った男」という映画になっています。

 クリス・クーパー(ボーン・アイデンティティでもスパイ役で出ています)が主演で、米国では珍しい敬虔なカトリック教徒で大物スパイ(そして性的倒錯者)という難しいハンセン役を演じています。

 要するに、いくら米国でもイデオロギーの伴わない諜報活動は限度があると言うことです。しかし宗教や民族問題が絡むと諜報活動もテロ活動も過激になっていくのです。

 映画の話が出たついでに、もうひとつお勧めは、ケビン・コスナー主演の「追いつめられて」です。

 FBI内に、大物のロシアスパイ「ユーリー」が潜入していると言う一種の都市伝説があるのですが、たまたま国防長官の愛人と仲良くなったため「ユーリー」だとされて「追いつめられて」行く青年将校の話です。最後にとんでもない「どんでん返し」があります。

 最後に、米国政府の中枢にソ連のスパイがいた本当の話しです。第二次世界大戦前後に主に財務次官補として活躍したハリー・デクスター・ホワイトです・

 日本を太平洋戦争に追い込んだ「ハルノート」を実質的に書いたのも、ブレトンウッズ体制でドル主軸通貨の仕組みを考えたのも、このホワイトなのです。

 昨年12月13日付け「ドル基軸通貨体制の変遷と今後 その1」に書いてあります。