2012年に起こりそうなこと  その2  「米国大統領選はオバマ再選」

 本誌では、大統領選の候補者選びが始まってすぐ「オバマ再選はない」と書きました。しかし来年早々から始まる予備選を前にしても共和党の有力候補者が絞り切れていません。

 こうなると単純に「現職の強み」で「オバマ再選」となりそうです。

 共和党としては、経済の低迷を現職のオバマの責任にしてホワイトハウスを取り返す絶好のチャンスなのですが、肝心の「勝てる候補者」を用意できていません。

 一応、現時点での共和党の「有力」候補者は、前マサチューセッツ州知事のミット・ロムニー氏(64才で穏健派。ベインキャピタルの創業者の1人)と、ニュート・ギングリッジ氏(68才で保守派。クリントン政権時の下院議長)ですが、「これだけしかいないのかなあ」といったところです。

 それに日本ではあまり話題にならないのですが、米国大統領選では「どの宗教を信じているか?」が結構重要なのです。これは単純に「票の数」の問題だけでなく、政策論争に大きく影響するからです(例えば人口中絶や同性婚など、必ず自分が信ずる宗教の倫理観に基づいた意見でないと信用を失います)。

 ロムニー氏は信者数が人口の1%以下のモルモン教徒で、ギングリッジ氏も比較的少数派のカトリック教徒です。歴史的にカトリックの大統領はジョン・F・ケネディしかいません。従ってロムニー氏もギングリッジ氏も、少なくとも「票の数」でプロテスタントである現職のオバマ氏に対して「有利」ということは絶対にありません。

 米国では圧倒的にプロテスタントが多いのですが、その中でも最大宗派が「バブテスト」で4000万人の信者がいるとされています。ジョージ・ブッシュ前大統領など歴史的に数多くの大統領を輩出しています。

 余談ですが、現在の米国で最も注目されている米国人は、フットボールのデンバー・ブロンコスのティム・ティーボウ(Tim Tebow)選手で、フットボールの実績というよりも「バブテスト」としての敬虔さが人気を集めています。得点した時などに片膝をついて祈るポーズ(Tebowing)は社会現象にまでなっています。

 これも米国に「宗教」が純粋に根付いていることの表れなのです。

 話を戻しますと、ここまでは単なる選挙予想なのですが、ここからが重要なのです。

 つまり、オバマが再選しようとも、突然共和党に「有力」候補者が現れて逆転しようとも、同時に行われる上下院選挙で民主党が多数を占めても、逆に共和党が多数を占めても、結局は米国の現在の行政能力の低下に歯止めがかからず、危機対応能力が低下したままで、米国経済の瞬発力が失われたままになるのではという危機感が拭えないのです。

 やや分かりにくい表現なので、順を追って説明します。

 米国では大統領が行政の最高責任者で、各省庁や政府機関のトップを含むすべての任命権(罷免権も)を持ちます。その一方ですべての立法権は議会に属し、大統領には議案提出権もありません。

 この枠組みはずっと同じなのですが、2008年の金融危機時にジョージ・ブッシュ大統領やヘンリー・ポールソン財務長官(元・Goldman Sachs会長)が、当時は上下院とも過半数を野党・民主党に握られていたにもかかわらずAIGファニーメイフレディマックなどを実質国有化し、中央銀行(FRB)に多額の資産を購入させ、総額7000億ドルの不良資産救済プログラム(TARP)を成立させ、結果的に米国経済だけでなく世界経済を沈没から救ったことは事実なのです。

 それでは、いま同じ危機が襲ってきた場合(ユーロの財政危機も十分に危機なのですが)、現在の米国の行政に同じ危機対応能力があるのか?ですが、残念ながら「十分ではない」と言わざるを得ません。

 これは単純にオバマの能力がジョージ・ブッシュに劣っているということではなく、ガイトナー財務長官の調整能力がヘンリー・ポールソンに劣っているということでもなく、客観的に見て僅か3年ほどの間に米国の行政能力が大きく低下したのです。

 本来なら、ここで「非常に強い」大統領候補者が出てこなければならないのですが、そもそも誰も出てこないところに「本当の行政能力の低下」があるのです。

 行政能力が低下しているから米国の金融機関の地盤低下にも歯止めがかかりません。本年を通じて著名ヘッジファンドの運用成績は惨憺たるもののようですが、その理由の大半は米国の金融株の値下がりによるものです。

 従来であれば米国の行政能力をもってすれば、金融機関の地盤沈下などすぐに解決できるはずで、値下がりしている金融株は大きな収益チャンスであると運用者は本能的に考えて行動したのですが、全くの期待外れだったのです。これもこじつけではなく「米国の行政能力の低下」の産物なのです。

 2012年も「米国の行政能力の低下」が続き、米国だけでなく世界経済の成長を阻害し続けるかもしれないのです。