円高のメリット・デメリット  その1

 先日「無策の円高が続く」と書いたのですが、読者の方から「そんなに円高は悪いことなのか?」とのコメントを頂きました。非常に重要なことなので本日はこれについてです。

 細かく考えていくとキリがないので、総論的なことと各論的なことの1点ずつに絞って書きますが、それでも2回分になってしまいます。

 まず総論的なことからですが、日本銀行の発表している本邦対外資産負債残高(2010年末・これが最新なのです)によりますと、日本全体から見た対外資産残高が563兆円(直接投資68兆円、証券投資272兆円、その他投資130兆円、外貨準備90兆円など)に対し、対外負債残高が312兆円(直接投資18兆円、証券投資152兆円、その他投資136兆円など)で、差し引きの対外純資産が251兆円となっています。

 ただ対外負債残高と言っても、外人投資家が「勝手に」日本に直接投資・証券投資・その他(大半が不動産)投資をしている分がほとんどで、為替や価格がどうなっても日本にとっては何の関係もありません。

 つまり日本全体でみれば純資産の251兆円ではなく、資産残高の563兆円が海外エクスポージャーなのです。

 厳密に言えば、本邦企業が対外資産を持つときに現地で資金調達しているケースとか、国内でも何らかの為替ヘッジをしているケースなどがあるため、563兆円のうちのどれくらいが為替エクスポージャーとなっているのかを推測することは難しいのですが、何れにしても「円高」によって巨額損失(評価損)が発生していることは確かです。

 逆に、本邦企業などが全く単純に外貨建ての資金調達をしていれば、間違いなく「円高」のメリットを受けているのですが非常に少ないと思われます。

 米国を見ているとよく分かるのですが、一番即効性のある景気対策は株式市場を上昇させることによる資産効果で、そうすると市場心理が好転して経済活動が活発化して行くのです。だから米国の経済対策とは株式対策と言ってよいのです。

 逆に日本では、規制強化(罰則強化)ばかりで株式市場が低迷し、「円高」により巨額の評価損が発生しているため、両方の「逆資産効果」による景気の低迷が続いているのです。

 極論すれば、まず「円安」になりさえすれば、それによって(多分)株式市場も上昇するため、両方の資産効果でまず市場心理が好転して、それを受けて実体経済も改善するという順番のはずなのです。

 つまり「円安」が最も即効性のある景気対策であることは間違いないのです。

 今からでは明らかに手遅れなのですが、過去に日本国債を外貨建てで発行しておけば、かなりの「償還差益」が生まれて財政状況の改善に寄与していたはずです。

 手遅れという意味は、今更(例えば)ドル建ての日本国債を発行しても世界中でドル資産を圧縮しているなかで販売できず、また日本の国力からしてこの「超円高」が長く続くとも思えず将来「償還差損」が発生する可能性が高いからです。

 本誌の主張である「日本国債(円建て)」を海外に売ろうというと「本当に売れるのか?」となるのですが、世界で一番買い手が多いはずの「円」と「国債」に分解して考えれば「絶対に売れる」のです。

 ただ円建てなので将来円安になっても「償還差益」が出ないため、海外で保有されている国債残高の半分の外貨を持とうという、もう1つの本誌の主張になるのですが、昨年11月1日付け「円高に対する国家戦略とは  その1」、11月2日付け「円高に対する国家戦略とは  その2」に詳しく書いてあります。

 これからの議論にも関連していますので、ぜひ時間のある時に読んでみて下さい。 さて次は各論的なことで、為替介入などを行う「外国為替資金特別会計」(以下、「外為特会」)について考えてみます。

 外為特会では為替介入だけでなく、欧州のEFSF債(ユーロ建て)や、野田首相が先日「パンダの見返り」で約束してきた中国国債の購入なども行います。原資はすべて国債(政府短期証券)の発行で賄っています。

 政府短期証券と言っても、ずっと借り換えを続けているため長期国債と変わらず立派な国民負担です。従ってそれを原資にする「外為特会」は、その運営方法は国民に対して責任を負うものであり、またその収益(出ればですが)は国民に還元されるべきものなのですが、現状は全く違っています。

 平成23年11月末現在の外貨準備高(外為特会の残高)は1兆3047億ドルとなっています。一方、負債である政府短期証券の発行残高は137.9兆円と推定されます。

 発表されている最新の平成23年9月末現在の政府短期証券発行残高が128.8兆円で、そのほとんど全部が外為特会向けのはずで、さらに平成23年10月~11月に行った9兆916億円の為替介入資金も政府短期証券発行で賄っていると推定した数字です。

 つまり、単純に計算して(もちろん全額がドルではないのですが、円でもないのでドル換算してという意味で)105.70円が「わが外為特会」の保有するドルのコストなのです。

 続きます。