円高のメリット・デメリット  その2

 前回は総論的なこととして、日本には巨額の海外エクスポージャーがあり、そのうちどれくらいが為替エクスポージャーなのかは不明としても巨額の評価損が発生しているはずで、低迷する株式市場と相まって「逆資産効果」による日本経済低迷の原因であると書きました。

 コメントも頂いているのですが、確かに2011年9月末の資金循環表では家計が直接保有する外貨資産は30兆円しかありません。しかし家計・民間非金融法人・一般政府(中央政府・地方公共団体社会保障基金)を合わせた日本全体の総金融資産2708兆円の中に582兆円もの対外資産があることは間違いなく(控えめに見ても為替エクスポージャーは300兆円以上あるはずです)、日本全体で見るとどこかで巨額の評価損が発生していることになるのです。

 そして各論的なこととして、そのどこかで発生している巨額の評価損の中ではっきりと特定できる外国為替資金特別会計(以下、「外為特会」)について書き始めたところでした。

 前回、2011年11月末現在の外貨準備高は1兆3047億ドルで、負債である政府短期証券の発行額が137.9兆円(推定)であるため、ドル換算した外貨の平均コストが105.70円になると書いたのですが、正確に言いますと外貨準備以外に162億ドルの「その他外貨資産」があり、これを含めて考えると外為特会で保有している外貨は1兆3209億ドルとなり、外貨の平均コストは104.40円となります。訂正いたします。

 従って、1ドル=77円で計算しますと外為特会の資産総額が101.7兆円となり、36.2兆円(推定)の評価損が出ていることになります。

 ご質問頂いているのですが、これは一応金利等の収入を含めたコストです。しかし今までに運用益(主に金利収入)から30兆円以上を一般会計に繰り入れているため(最近は毎年2兆数千億円ほど)、累計の収支ではそれほど巨額のマイナスではなさそうです。

 ここで問題にしたいのは、外為特会で巨額の評価損が出ていることではなく、そもそも巨額の外貨準備がどういう国策上の意味があり、今後どう国民に還元されていくのかが全く示されていないことです。

 そもそも「特別会計」とは一般会計から区分されたものなのですが、全て壮大なブラックボックスと官僚の利権の温床になっているのです。

 規模が巨額なものだけを見ても、件(くだん)の外国為替資金特別会計(資産総額を単純に為替だけ時価評価すると101.7兆円)だけでなく、財政投融資特別会計(直近の投融資資金残高が163兆円)、年金特別会計(平成23年度末の積立金が111.7兆円で、2006年度の149兆円から激減しているのですが誰も問題にしません)、国債整理基金特別会計(平成23年度の予算規模が206兆円で、予算段階で12兆円もの余剰金が出ています)などがあるのですが、それらの内容が詳しく国民に説明されることは一切ありません。

 外為特会(外貨準備)に話を戻しますが、歴史的に1つだけ挙げておきたいのが2003年1月~2004年3月の15か月に行った35兆円もの円売り・ドル買い介入で、その間にドルは125円から105円まで下落しているなかで強行したものです。

 この介入は、明らかに円安に誘導するのが目的ではなく、ITバブル崩壊と同時多発テロの後遺症に苦しむ米国経済と米国金融システムを助けるために「量」を重視したものだったのです。

 具体的に言いますと、まず当時日本だけが行っていた量的緩和に加えてこの介入資金も市場に放置することにより一層余剰感を出し、その資金が膨大なキャリートレードによって米国内に還流してリスクマネーとなったこと、外為特会で取得したドルがFRBに預けられて米国金融システムを補強したこと、またそのドルで巨額の米国国債を購入したことなど、レバレッジまで考慮すると米国経済に「とんでもないメリット」をもたらしたはずなのです。

 こじつけて考えれば、米国経済が回復することによって日本経済も恩恵を受けるということかもしれませんが、外為特会が日本のためではなく米国のために使われた典型例です。当然その分もしっかりと評価損になっています(35兆円の平均コストが115円として11.5兆円ほどの評価損です)。

 まあその時に限らず、日本の外貨準備はドルに偏重しており、その資産(米国債など)を売却することは、議論することも含めて歴史的にタブーになっているようです(かつて橋本首相が口を滑らせて大問題になりました)。

 平成23年11月末現在の外貨準備の内訳に戻りますが、外貨準備額が1兆3047億ドルのうち外貨(通貨別内訳なし)が1兆2248億ドル、さらにそのうち有価証券が1兆1794億ドル(これも内訳なし)となっています。

 外貨に含まれないのは円貨であるという意味ではなく、IMFリザーブ(165億ドル)、SDR(外貨特別引き出し権・199億ドル)、金(429億ドル)などのことです。 金は2460万トロイオンス保有しており、429億ドルということは1オンス=1740ドルほどとなり、これだけは時価評価されています(それ以外の有価証券などは時価評価されていませんが、金利低下で膨大な評価益が出ているはずです。これは後で書きます)。

 また外貨準備高以外に、前述の「その他外貨資産」が162億ドルあり、大半が国際協力銀行への貸し付けとなっています。

 確か昨年8月24日に、政府は外貨準備から外貨を1000億ドル民間に貸し付けて海外資産の購入などを促進する円高対策(どう考えてもそうならないのですが)をまとめていたはずなのですが、実行していれば国際協力銀行を通じた融資となるものの、この残高は以前からある残高なので、実行もしていないことになります。

 次回は、これらをもとに国策のための具体案を考えてみます。コメントを頂いている「日本国債は海外に売れるか?」についても入れるつもりです。