ヘッジファンドが蠢(うごめ)く  その2

 昨日(1月30日)付け「ヘッジファンドが蠢く」で、増税のための「当局」の財政破綻・国債暴落論が、実はヘッジファンドをはじめとする海外投資家の「日本国債売り崩し」を推奨し、本来は何の問題もない日本国債市場に無用の混乱を与える可能性が出てきていることを書きました。

 考えれば考えるほど重要なことなのでこの話題を続けます。海外投資家はヘッジファンドとは限らないのですが、ここではヘッジファンドの中でも特に巨大ファンドの多いグローバルマクロ型とイベントドリブン型を念頭に置いて書いていきます。

 これらのヘッジファンドが狙う対象は、まず市場が大きいこと(つまり巨額のポジションが取れること)、ファンダメンタル分析で説明できること(やや分かりにくい表現ですが、例えば財政赤字の大きな日本の国債は空売りするか休むかの二択で、間違っても買いません)、予想最大リスクに比べて予想最大収益が格段に大きいこと(これは後述)、さらに昨日書いたように「当局」も巻き込んだ大掛かりな勝負が出来ることなどです。

 例えば2007~8年のサブプライムローンを含むモーゲージ関連債券の大規模空売りは、まさにこのすべての条件に適うものでした。モーゲージ市場の巨人が実質国有のファニーメイフレディマックで、「当局」へのダメージが膨らむことも予想できたのです。

 そして「日本国債の空売り」も、すべての条件に適うのです。

 だからヘッジファンドはかなり以前から「日本国債の空売り」を何度も仕掛け、実際はほとんど失敗しているのですが、このような理由で何度も仕掛けてくるのです。これもヘッジファンドの考え方で、仮に利益となる確率が高くなくても利益が上がれば非常に大きいものは何回も狙うのです。まさに勝率より利益の絶対額なのです。

 その数少ない成功例が2003年夏のVAR(Value at Risk)ショックと言われる急落です。 2000年以降のITバブル崩壊や米国同時多発テロによる世界不況で、日本の銀行が国債を買い進めて10年債利回りが0.5%以下となり、さらに利回りを上げるためにもっと長期の国債を買い込んだところで利回りが反転(上昇)し、ALMの観点から利回りが上がれば上がるほど大量に売却しなければならず、短期間で10年債利回りが1.4%まで上昇した時です。

 しかし銀行もその時の「学習効果」から、現在の保有国債の平均残存年数は4年以下となっており再来の危険性は少ないと言えます。

 その代わりに要注意なのは、ヘッジファンドはかなり以前から日本国債の長期(3~5年?)プットオプションを日本の銀行から相対取引で買っています。金額は想像がつきません。

 つまり銀行にとって(ヘッジファンドから)受け取るプレミアムは「日銭」となり、仮に利回りが上昇してプットオプションが行使されても、それはそれで良いくらいに考えているのです。

 問題はVolatilityがかなり低く設定されていることです。つまり長期の国債オプション市場は参加者が少ないため、ヘッジファンドの「言い値」で売っている可能性があります。それでも受け取るプレミアムは銀行にとって貴重な「日銭」なのです。

 しかし、ひとたび国債利回りが上昇(価格は下落)を始めるとVolatilityも上昇するため、銀行が「売っている」プットオプションの価格は急上昇し、そうなるとまたしても利回りが上昇すればするほどプットオプションが行使されることに備えて保有国債を売却しなければならなくなるのです。

 ここで重要なことは、日本国債は銀行をはじめとする金融機関で「問題なく」消化されており、その金融機関の資金は日本国民の資産なのです。つまり万一にでも日本国債がヘッジファンドに「売り崩される」ことがあれば、銀行にとっては担当役員のクビくらいで済むのですが巨額の損失を被るのは日本国民なのです。

 さらにご丁寧に「国債が暴落すれば預金が封鎖される」というとんでもない議論をするマスコミまでいます。だから早く増税して財政破綻を避けなければならないと言いたいのでしょうが、まったくお話になりません。

 そもそも債務者である「当局」は、債権者である国民に向かって「国債は皆様のお陰で順調に消化されており、ご迷惑をおかけすることは全くありません」と本当のことを説明し、同時に債権者である国民のために「債務者の私どもは真剣にコストカットに努め、同時に景気が回復する方策に必死で取り組みます」と言わなければならないのです。

 今の債務者「当局」は、債権者の国民に向かって「お前の債権を紙くずにしてほしくなかったら、もっともっと窮乏生活をして金を持ってこい」と言っているようなもので、同時にまたしてもヘッジファンドをはじめとする海外投資家には「巨額の収益チャンス」を提供しようとしているのです。

 ここは「オール日本」でヘッジファンドに対抗しなければならないのです。「当局」も本当に国債が売り崩されたら「利権」どころではないことを理解しなければならないのです。

 本日発売の「週刊朝日」も読んでみて下さい。

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