金融商品取引法が引き起こす「新たなリスク」

 日本の金融商品取引法に関するお話です。

 米国のメリーランド州退職年金基金などが、リコールに関するトヨタ自動車の情報開示が不適切で株価が下落したとして、米証券取法違反と日本の金融商品取引法違反(有価証券報告書あるいは開示資料の虚偽記載)の2本立てで損害賠償を求めていました。

 実際にトヨタ自動車は、昨年11月に約20億円を支払って和解しています。これは、ほとんど同時期に和解した11億ドル(940億円)のリコール訴訟とは全く別のものです。

 要するにトヨタ自動車の虚偽行為で投資家が損失を被ったということなのですが、米証券取引法ではトヨタ側の「悪意」を立証しなければなりません。しかし日本の金融商品取引法では「悪意」がなくても虚偽が発覚すれば、会社が賠償責任を負う「無過失責任」と定めています。

 さすがに米国でも、米裁判所が証券訴訟を扱う場合、外国法への干渉は避けるべきという連邦最高裁の判断が2010年に示されています(モリソン判決)。

 結果的にこの訴訟は、担当したロサンゼルス連邦地裁が「外国の法を乱す」と、日本の金融商品取引法の適用を否定したのですが、米証券取引法による訴訟は残りトヨタ自動車が和解を選んだものです。

 そもそもこの訴訟は、情報開示に関しては米国での裁判の方が原告にとって有利であり、法律面では会社の「悪意」を立証する義務のない日本の金融商品取引法が圧倒的に原告にとって有利なので、米国の裁判所に日本の同法の適用を求める戦術を取ったものです。

 しかしこの訴訟の影響は「とてつもなく」大きくなります。

 なぜなら、日本株式に投資する米国投資家にとって「とにかく何でも虚偽さえあれば、因果関係に関係なく値下がり分を賠償してくれる」という、大変に慈悲深い法律が日本にあることが広く知られてしまったからです。

 しかも今回は「モリソン判決」が尊重されたため、今後は直接日本の裁判所に日本の金融商品取引法で訴訟してくるケースが続発することになります。トヨタ自動車が早めに和解したのも、この事態を避けるためだったのかもしれません。

 さしあたっては、オリンパスがまず標的になりそうです。日本での裁判では米国に比べて原告への情報開示が十分ではないのですが、何しろ「無過失責任」なので自動的にオリンパスには巨額の賠償判決が出てしまいます。

 何度も書いているのですが、オリンパスは米国当局からも刑事責任と巨額の罰金が科せられると思いますが、これは全く別の話です。

 証券取引等監視委員会が平成5年以降に告発した金融商品取引法違反(2007年以前は証券取引法違反)は157件あるのですが、公判中の10件ほどを除いて「すべて」有罪判決が確定しています。

 つまり金融庁証券取引等監視委員会にとって、金融商品取引法は大変頼りになる「万能の武器」なのですが、同時に今後は日本企業にとって「新たなリスク」になってしまうのです。

 民主党政権時の昨年11月に閣議決定した追加景気対策には「金融商品取引法の無過失責任の見直し」が盛り込まれていたはずですが、政権が交代しているためどのようになるのかは分かりません。

 そういえばゴールドマン・サックス証券が、オリンパスの投資判断を「中立」から「強い買い推奨」に2段階も引き上げたようで、当然にオリンパスの株価が上昇しています。一昨年の巨額粉飾の発覚直前にもゴールドマンはオリンパスの投資判断を引き上げているのですが、今回はどうなんでしょうね?