日銀新総裁は「クロトン」

 黒田東彦(はるひこ)氏は財務省では「クロトン」と呼ばれていたそうです。

財務省では愛称で呼ばれるのは、大物の証拠です。「元祖・10年に1人の大物次官」である斉藤次郎氏は「デンスケ」でした。

 本日(2月25日)の日経平均は276円高の11662円となり、円も21時現在、対ドルで93.73円,対ユーロで124.42円と、円安になっています。市場は「クロトン」を歓迎しているようです。

 ところで黒田氏は(やっぱりクロトンと呼ぶわけにはいかないので)、財務官僚には珍しいインフレターゲットや積極緩和の推進者なのですが、もう1つ「アジア共通通貨」構想を提唱していました。

 2006年5月のアジア開発銀行(ADB)総会で、黒田総裁(2005年2月就任)が提唱しました。今考えるとADBの考えというより黒田総裁の考えだったようです。その後の民主政権で鳩山首相(当時)が提唱した「東アジア共同体」構想にも関連するようです。

 黒田氏が日銀総裁になったからといって、すぐに盛り上がる話ではなさそうですが、少し考えておきます。

 要するにユーロのアジア版です。共通通貨はACU(アキュ)と呼ぶそうです。

 参加国を特定しても意味がないのですが、日本、中国、韓国、台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムなどの通貨を統合するものです。

 反日感情がある中国や韓国が、日本と通貨統合をするはずがないとの「常識論」は横に置き、日本のメリットとデメリットを考えてみましょう。

 域内のアジア諸国との貿易は、為替リスクが無くなるのですが、現在の域内の貿易は大半がドル建てで、一部が円建てのはずです。つまりメリットは、ほとんどありません。

 仮に通貨統合した場合、その域内の(日本を除く)インフレ率は、多分米国やユーロ圏より高いため、通貨ACUはドルやユーロに対して趨勢的に弱くなるはずです。つまり円はACUになった後は趨勢的に弱くなります。これはメリットと言えなくはありません。

 通貨が統合されると、日本から域内への直接投資は為替リスクが無くなります。人件費などのコストはすぐに収斂するわけではなく、また域内の金利も「かなり」下がるため、域内への生産移転などがますます進み、国内がますます空洞化します。

 これはメリットとは言えません。

 構造的な問題点は、もちろん域内の各国の金融政策が統合され、政策金利も統合されます。従って日本だけが「積極的な金融緩和」をすることは出来なくなります。長期金利は需給関係で決まるのですが、政策金利は今のゼロ金利というわけにはいきません。ゼロ金利にしてしまうと、日本以外の域内の景気が過熱するからです。

 これは日本にとって「とんでもない」デメリットです。

 しかし通貨を統合すると、ドル・ユーロとともにACUも「ある程度」は国際通貨(基軸通貨)になり、世界中で保有が進みます。その結果ACUの運用手段として、域内の国債が世界で保有されるようになります。
 
 域内の国債と言っても、要するに日本国債しかないため、利回りが低くても世界で「ある程度」保有が進むはずです。これが唯一のメリットでしょう。

 しかし全体として、メリットがありません。

 もし2006年当時だとしても、当時の黒田ADB総裁が何を考えて「アジア共通通貨構想」を提唱したのかが、よく分かりません。

 せっかくですが、これ以上考えることはやめにして、忘れることにします。