日銀・岩田副総裁の講演から感じること

 日銀の岩田規久男・副総裁が10月18日に中央大学で講演しました。読者の方から「紛れ込んで、突っ込んだ質問をしてみたら?」とのコメントをいただいていたのですが、ちょっと八王子は遠すぎて行けませんでした。

  日銀のHPに講演内容が出ていますので、ご興味のある方は下記よりご参照ください。

 【講演】「量的・質的金融緩和」の目的とその達成のメカニズム 

  4月4日の「異次元」金融緩和の実施から半年以上経過しているので、その後の状況の変化も織り込んで副総裁が直々に「講演」してくれると思っていたのですが、かなり期待外れでした。

 当初の日銀の説明からは「全く」何も変わっておらず、要するに「現在の政策の効果に何の疑問も懸念も抱いておらず、状況の変化による軌道修正の必要性を全く想定していない」ことになります。

  まず、なぜ日銀は2%というインフレ率の達成を目指すのか?ですが、これは当初からの「デフレは価格下落を通じて企業収益を圧迫し、結果として経済全体の生産や雇用を減退させるから」であり、日銀は2%というインフレ目標を達成するために、これまでと次元の違う「量的・質的緩和」を行っていると繰り返しています。

  「量的」とはマネタリーベースを2014年末までに(2012年末の2倍の)270兆円とすることで、「質的」とは買い入れる国債の平均残存年数をこれまでの2倍以上の7年程度にすることで、「イールドカーブ全般を引き下げるため」と説明しています。

  そして最後に、「名目金利の引き下げ効果」と「期待インフレ率の上昇効果」で、実体経済に重要な影響を及ぼす「予想実質金利」を引き下げる効果があるとしています。

  当初から「違和感」を感じていたのですが、現在も日銀の「基本的な理論構成」がそのまま維持されていることになります。

  「違和感」を順番に挙げていくと、インフレ率の上昇とは経済活動が活発化した結果であり、インフレ率をまず無理に上昇させても経済活動が活発化しているとは限らないこと、そしてインフレ率の上昇には円安やエネルギー価格の上昇による「経済活動にマイナスでしかない」ものが含まれているのですが、特に区別していないことです。

  つまり、まさに現在の足元で加速中の「経済活動にマイナスでしかないインフレ」でも、日銀はそのまま好ましいことと「喜んで」いることになります。

  何よりも不思議なのは「量的・質的金融緩和」により「名目金利の引き下げ効果」と「期待インフレ率の上昇効果」が長期間にわたって共存すると信じきっていることです。その結果、国債の予想実質金利が(たぶん)マイナスになり、国債から株式などのリスク商品に資金が移動すると期待しているのですが、「期待インフレ率の上昇効果」の結果として「名目金利がいずれ上昇予想に転じて」国債市場が下落することを全く心配していないことです。

  国債市場全体の下落(利回りの上昇)が経済に及ぼすマイナス効果を、全く気にしていないことになります。

  現時点では、たまたま国債の名目金利(名目利回り)が低下しており、講演のあった10月18日には5年国債利回りが0.20%(講演では、5年の期待インフレ率が1.5%なので予想実質金利がマイナス1.3%まで下落しているとのグラフが添付されています)、10年国債利回りが0.61%まで低下しています。

  これは国債利回り(特に長期国債利回り)の低下は、近い将来の経済活動の低下を暗示しているなどの可能性を全く排除し、すべて日銀の「量的・質的緩和」のおかげであるとする大変に危険な考えです。逆に状況が少し変化し、長期国債利回りが上昇を始めたときの対応が、全く取れないことを意味します。

  また量的緩和で供給された資金が日銀当座預金に滞留したままでも、十分に期待インフレ率が上昇するとの岩田副総裁の「持論」も繰り返されています。その是非はともかくとしても、「弊害」については全く考慮していないことは立場的に問題があります。

  この「弊害」については、本日(10月21日)配信の有料メルマガ「闇株新聞 プレミアム」で、もっと幅広い角度から解説します。宜しかったらお申込みいただき、読んでみてください。