微妙になってきたAIJ投資顧問事件の判決

 2000億円近い年金資産を「消滅」させたAIJ投資顧問事件で、虚偽の運用成績を示して17の年金基金から248億円を騙し取ったとして詐欺罪などに問われた浅川和彦前社長ら3名の公判は、昨日(10月30日)東京地方裁判所で結審しました。

 12月18日に判決が言い渡されます。

 そもそもこの裁判は一度結審していたところ、7月の最終弁論で浅川被告が一転して「詐欺容疑」について無罪を主張したため審理が再開していたものです。

 検察側は改めて浅川被告に懲役15年を求刑し、新たにAIJが香港で保有している5億6000万円を「犯罪収益金」として没収し、追徴金は当初の218億円からその分を減じた212億円とすることを求めました。

 この218億円の根拠は、起訴内容の17の年金基金から騙し取った248億円から解約などで返却済みの30億円を減じたもので、そのうち5億6000万円を「犯罪収益金」として没収して充てることにしたものです。

 ところが仮に追徴金が徴収できたとしても年金基金に返却されるものではなく、ましてや「犯罪収益金」は詐欺罪が成立しないと没収できないはずです。

 それはそうとして、どこが「微妙になってきた」のでしょう?

 浅川被告らは、虚偽の運用実績を示して17の年金基金から248億円を騙し取った刑法上の「詐欺罪」と、全く同じ内容ながら金融商品取引法上の「投資一任契約の締結にかかる偽計」で起訴されています。

 浅川被告は、前者を「私は詐欺という汚い真似をしたつもりはない」と完全否認し、後者は認めました。しかし後者だけだとせいぜい3年以下の懲役(初犯なので執行猶予)と300万円以下の罰金だけとなります。

 懲役15年の根拠は「詐欺罪」の成立が前提ですが、これは「故意」を証明しなければならず、結構ハードルが高いことになります。

 まあ騙したことは明らかですが、「騙すつもりはなかった」と抗弁されると結構厄介なのです。事件化直後の2012年4月26日付け「AIJ投資顧問は詐欺罪に問えるのか?」にも詳しく書いてあります。

 一方で、金融商品取引法上の「投資一任契約の締結にかかる偽計」は、契約書や金融庁への報告書などの物証があれば(必ずあります)、簡単に有罪に持ち込めます。

 浅川被告としては、長期刑となる「詐欺罪」を完全否認し、どう抵抗しても有罪になってしまう「投資一任契約の提携にかかる偽計」だけを認めたわけで、当然の作戦といえます。

 そもそもAIJ投資顧問は金融庁に登録された運用業者だったので、まず証券取引等監視委員会が捜査し、検察庁の特捜部が金融商品取引法違反で逮捕・起訴する「縄張り」になっていました。

 ところが2012年2月に事件が発覚した後、金融庁が真っ先に行ったことは翌3月にAIJ投資顧問の登録を取り消すことでした。その後は残余資産を回収するわけでもなく、全く時間の無駄の証人喚問を数回繰り返し、ようやく同年6月になって警視庁捜査2課が「詐欺」の疑いで浅川前社長らを逮捕していました。

 つまり証券取引等監視委員会金融庁にしてみれば、「登録業者の悪事」から「関係ない業者の悪事」に変更しているので、警視庁捜査2課の「詐欺罪」の捜査に真剣に協力したとは考えにくいのです。

 繰り返しですが「詐欺罪」で有罪に持ち込むハードルは高く、裁判所は「けしからん」だけでは有罪にしてくれず、周到な裏付けや緻密な理論構成が必要となります。

 浅川被告らを詐欺罪で有罪に持ち込めるように、本来の管轄であった証券取引等監視委員会金融庁が真剣に協力したかどうかですが、結構微妙だと懸念しています。

 そうでないと懲役3年になってしまいます。