ところで東芝は刑事事件化しないのか?

 最近の経済記事は「どうあるべきか?」と「どうなるのか?」を分けて考える必要があります。例えばFRBの年内利上げは「まだまだ世界経済にとってはリスクが大きいので慎重に対処すべき」ではあるものの「やっぱり利上げしてしまう」となり、中国経済については「実態は想像もつかないほど悪化している」ものの「中国政府が強引に何とかしてしまう」となります。

 そのノリで書くと東芝問題は「過去の事例から考えても刑事事件化すべき悪質で会社ぐるみの大粉飾事件」ではあるものの「刑事事件化する(できる)ことはない」となってしまいます。

 本誌は東芝問題については発覚時から一貫して刑事事件化しない(できない)と書き続けてきました。今でもそう考えていますが、刑事事件化するなら「そろそろそのタイミング」なので、その辺りを解説しておきます。

 というよりこのままあと1~2週間が何事もなく過ぎてしまえば(過ぎてしまいますが)、東芝問題は永久に事件化しません。

 東芝は11月7日に2015年4~9月期決算発表(905億円の営業赤字に転落)と同時に、西田・佐々木・田中の歴代3社長と2名の元CFOを相手取り総額3億円の損害賠償請求訴訟を提起したと発表しました。

 同日付けで受領した役員責任調査委員会の調査報告書に、不適切会計(いまだにどこも粉飾決算とは報道していません)に関与したと認定された14名の現旧役員と執行役のうち、この5名だけが「責任追及対象者」と特定されたため訴訟に踏み切ったことになります。

 奇怪なことに室町・現社長は不適切会計が行われていた時期に取締役会議長だったのですが、全く責任なしとされています。また室町・現体制における最重要幹部である志賀・執行役副社長と秋葉・執行役上席常務の2名が「関与した」と認定されているものの、何のお咎めもなく志賀氏はポスト室町の最有力候補のままです。

 そして「責任追及対象者」とされた5名への請求金額は、わずか総額3億円です。上場契約違約金など現時点で確定している損失額が10億円をこえているからという「およそわけがわからない理由」で総額3億円となっています。

 これから出てくる金融庁への課徴金が84億円程度となるはずで東芝はすでに前期に引き当てていますが、こちらは「責任追及」の対象ではないそうです。

 そもそも何でこのタイミングで訴訟に踏み切ったのかというと、株主からの代表訴訟が9月上旬に提起されており、そこから60日以内に東芝が(正確には監査役が)訴訟に踏み切らないと正式な株主代表訴訟となりその請求額もケタはずれになってしまうからで、東芝が「わざと少額の請求訴訟」を提起してこれを防いだという構図でしかありません。

 

 2011年秋に発覚したオリンパス事件は(こちらは事件化して複数の逮捕者が出ましたが)、最大粉飾額が1200億円で、それも発覚時点ではその大半が減損処理されて表に出ていたにもかかわらず、新旧取締役19名を相手取り総額36億円(別途、新旧監査役に対して総額5億円)の損害賠償請求訴訟が提起され、何よりも責任の有無にかかわらず発覚時点の取締役11名全員が辞任に追い込まれました。

 東芝は確定した不適切計上額(粉飾額ではないそうです)が1700億円をこえ、何よりも当該期間に増え続けていたため(つまり解消の努力を一切していなかったため)オリンパス事件より何倍も悪質であるはずです。

 オリンパス事件では取締役責任調査委員会の調査報告書が出る直前に関係各所に強制捜査が入り、損害賠償請求訴訟が提起された翌月に刑事事件化しています。つまり逮捕者が出て、その模様が繰り返しテレビニュース等で報道されていました。

 つまり東芝が刑事事件化するのであれば、いくらなんでもそろそろ関係者への任意の事情聴取が行われていなければなりませんが、その兆しが全くありません。
 
 本誌では東芝の不適切会計が表に出た直後からずっと「何事もなく終わってしまう」と書いていました。実際には東芝内部の「チクリ合戦」が過熱したため騒ぎが想定より少しだけ大きくなりましたが、それでもまもなく「何事もなく」終わってしまいそうです。

 なぜそうなるのか? やはり東芝は過去の経団連会長(2名)や現在の日本郵政社長(その前は東京証券取引所社長)を輩出した「名門企業」であるからとしか説明できません。

 いつも書くように経済事件とは悪質な順番に事件化するものではありません。