GPIFの運用実績を精査する

 本日の記事は、本誌には珍しく(?)あまり批判的な記事ではありません。

 11月30日に発表されたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2015年7~9月期運用収益は7兆8899億円もマイナスになっていました。早速「年金が危ない」などの報道もありますが、あまり目くじらを立てる必要もなさそうです。

 確かに2015年7~9月期の期間収益率は運用資産比5.59%ものマイナス(年率換算ではありません!)ですが、これは2015年8~9月の世界の株式が大きく下落したためであり、10月以降の世界の株式市場は大きく回復しているため2015年10~12月期の運用成績は「いくらなんでも」回復しているはずです。

 だいたい年金運用は超長期運用なので短期的な相場変動に一喜一憂する必要はありません。相場が上昇時でも下落時でも指標(インデックス)から大きく見劣る運用でなければ一応は合格です。指標を上回る運用などハナからアテにしないことです。

 ここでGPIFは2014年10月31日付けで、厚生労働大臣の認可を受けて「中期計画の変更について」を公表していますが、その主な内容は基本ポートフォリオの変更でした。

 国内債券の基本構成割合を60%(上下8%)から35%(上下10%)へ、国内株式を12%(上下6%)から25%(上下9%)へ、外国債券を11%(上下5%)から15%(上下4%)、外国株式を12%(上下5%)から25%(上下8%)へと大幅に変更していました。

 今頃になってようやく気がついたのですが、実はこの2014年10月31日とは「大変に意外だった」日銀追加量的緩和が発表された日で、そこから日経平均が急上昇して円安が加速していました。

 GPIFの基本ポートフォリオ変更とは国内債券を減らして国内株式、外国債券、外国株式を「大幅に」増加させるもので、追加量的緩和で株高と円安にしてGPIFの運用成果を向上させようとしたのか、あるいは逆にGPIFの資金を使って一層の株高と円安にしようと考えたのかはよくわかりませんが、とにかく見事に連携を取っていたことになります。

 これは批判するのではなく「よくやっていたじゃないか!」と少し感心しています。2012年12月に安倍政権が発足したとき、そこからの急激な円安・株高でジョージ・ソロスヘッジファンドに「いやっ」と言うほどの収益機会を提供しただけだったことを考えると、大変な進歩です。

 その後の運用成果を四半期運用状況報告書で見ていきますが、紙面の関係で国内株式だけにします。運用方針が変更される直前の2014年9月末における国内株式の運用残高は23兆8635億円で、年金積立金全体に占める構成割合は17.79%でした。また同時点の日経平均は16173円、TOPIXは1326.29ポイントでしたが、直後の10月17日には日経平均が14532円、TOPIXが1177.22ポイントの安値となっていました。

 つまり株価的にも絶好のタイミングだったことになります。

 そこから四半期毎に収益額(運用資金の増減ではなく純粋の運用成果だけです)と期末のTOPIXを比べてみますと、2014年10~12月期はプラス1兆5619億円でTOPIXは1407.51(前期比プラス6.1%)、2015年1~3月期はプラス2兆9900億円でTOPIXは1543.11(同プラス9.6%)、2015年4~6月期はプラス1兆8657億円でTOPIXは1630.40(同プラス5.6%)、そして2015年7~9月期はマイマス4兆3154億円でTOPIXは1411.16(同マイナス13.4%)となっています。

 この1年間の国内株式の収益合計は2兆1022億円で、その間のTOPIXは1326.26から1411.16まで6.4%上昇しています。2014年10月17日の安値からだと19.9%も上昇しています。

 ここで2015年9月末の国内株式の運用残高がなぜか記載されておらず、年金積立金全体に占める比率が21.35%とだけ記載されています。同時点の運用資産額は135兆1087億円ですが、年金積立額はこれより3~5%多いはずなので国内株式の運用総額はだいたい29兆7000億円~30兆3000億円だったはずで、その中間値とするとちょうど30兆円となります。

 つまり2014年9月末~2015年9月末の1年間で、国内株式の収益額合計は2兆2011億円ですが運用資産は6兆1365億円も増えているため、この1年間に国内株式を約4兆円買い増していたことになります。

 この間のTOPIXは6.4%上昇していますが、仮に2014年9月末時点の国内株式運用残高23兆8635億円をそのまま1年間維持したとすると、運用収益はTOPIXの上昇幅と同じとして1兆5272億円となります。つまりこの1年間で4兆円買い増したため、その間の収益額が6000億円ほど多かったことになり、買い増した4兆円も15%の収益を上げていたことになります。

 つまり追加量的緩和とタイミングを合わせたGPIFの積極運用への変更は、とりあえず「成功」だったことになりますが、今後の運用状況にも注目する必要があります。