まんざら冷やかしでもなさそうな鴻海のシャープ買収

 本日(1月28日)夕刻、甘利経済再生担当大臣が辞任しました。これはどこまでいっても「やや問題ある企業」と「かなり問題ある公設秘書(国民の税金で雇っている秘書)」の「どこにでもあるような不明朗な現金授受」に過ぎず、すでに大臣は辞任して後任(石原伸晃・元幹事長)も決まっているため、これ以上は民主党など野党が「週刊誌ネタ」で国会を空転させてしまわないように願うだけです。

 そこで本日は、1月20日付け「産業革新機構はシャープを支援しないで日産自動車を買い集めたらどうか?」の続きですが、そもそも塙氏(故人)とともに日産自動車ルノーに売り渡してしまった張本人の志賀俊之氏が代表取締役会長に天下っておられる産業革新機構は、やはりシャープにご執心のようです。

 日産自動車はもうルノーに(フランス政府に)お任せしたのだから余計なことをするべきではなく(本誌のように取り返そうなどと考えるべきではなく)、シャープはサイズが手頃で御しやすく天下れて利権がたくさんあり銀行に負担を押し付けて安直に「再建」ができそうなので、ぜひ支援(再建)したいということなのでしょう。技術の海外移転を防ぐというのは「安直な言い訳」です。

 このシャープに対する産業革新機構の支援案とは、3000億円を出資して、みずほ銀行三菱東京UFJ銀行が保有する計2000億円の優先株を無償放棄させ、新たに1500億円の貸し付けを優先株に交換させるというものです。

 産業革新機構とは「ほんの一部」を民間に出資させて官民ファンドを装っていますが、実際は3000億円の資本金のうち2860億円を国(つまり税金)が出資する官制ファンドであり、そこへ1兆8000億円もの政府保証枠がついているため、まさに国の威光と(銀行に対する)恫喝力と資金力を背景に、官僚(ここでは経済産業省)が利権を拡大させる構造でしかありません。

 

 そこへ今週に入ってから(具体的には1月26日以降)、台湾・鴻海グループの郭(ゴー)会長が新たな支援案を(なぜかシャープではなく)経済産業省の幹部に提示したようです。

 その内容は、シャープ本体に5000億円、シャープと共同運営する大型液晶パネル製造の堺工場(別会社)の株式買い取りに1250億円の計6250億円を投じるようで、さらに件(くだん)の優先株・2000億円を保有銀行から買い取るようです。

 この堺工場とは、2012年に鴻海が(正確には郭会長個人が)660億円でシャープから37.61%を取得し、同株数を引き続き保有するシャープと共同運営しています。

 さて報道だけでははっきりしませんが、鴻海の支援案は表題にあるように「まんざら冷やかしでもなさそう」です。そこで産業革新機構と鴻海の支援案を比べてみましょう。

 まず2000億円の優先株は、産業革新機構が無償放棄、鴻海が(価格は不明ですが)有償で買い取るようです。保有する銀行にとっては明らかに違う提案ですが、シャープの企業価値からすると「大変に投資家に有利な発行条件である」優先株が残る方が企業価値を損ねています。

 優先株には6ヶ月・円TIBORプラスの優先配当に、平成33年以降に額面の110%での買い取り請求権がついており、また平成31年以降には普通株への転換条項がついており最低価格が100円(本日のシャープの株価は138円)なので、もし鴻海がシャープの経営を完全に掌握して再建する自信があるなら「額面近くでも」買い取っておくべきと考えます。

 別会社になっている堺工場は、シャープや大日本印刷などが保有する62%ほどの株式を1250億円で買い取る提案のようで、2012年に37.61%を660億円で取得したときと、ほぼ同じ評価をしていることになります。またこのうちシャープへの売却代金(750億円ほど)は、鴻海がシャープの経営を完全に掌握すれば「鴻海のもの」であるため、これも堺工場の価値算定に自信があれば大変に効率的な資金負担となります。

 そしてシャープ本体への資金投入は、産業革新機構が3000億円の出資、鴻海が5000億円を「投入(出資とは言っていない)」となっています。本日(1月28日)のシャープの時価総額は2347億円ですが、直近のバランスシートには長短借入金と社債を合わせて7000億円以上の有利子負債があり、その取扱いによってはどちらが有利なのかはわかりません。

 産業革新機構はそのうち1500億円を再び優先株に交換するのですが、鴻海はどうするのか(返済するのか減免するのか残高を維持するのかなど)はわかりません。つまり不確定要素が多すぎて単純比較ができませんが、少なくとも鴻海は冷やかしではなく、かなり真剣にシャープの経営を掌握しようと考えていると感じます。その際はシャープの無能な経営陣は完全に放逐されてしまいます。

 それではオール日本で考えれば、どちらの支援策が好ましいのでしょう?

 あれだけいつも安直にルノーに売り渡してしまった日産自動車を批判している本誌だから、産業革新機構の支援案に決まっているではないか?となりますが、実はそうとも言い切れません。

 組合が強く社員が働かず、当時の役員が無能であったため経営危機に陥っただけの日産自動車は外国企業(ルノー)の売り渡す必要は全くなかったと考えますが、シャープについては産業革新機構の支援案が「オール日本」で考えても、必ずしも好ましいとは言い切れません。

 シャープの今後の企業価値だけ考えれば、鴻海の支援案が優れているような気もします。大変に難しい問題なので、もう少し成り行きを見極めることにします。