墓穴を掘った? 村上世彰氏が設置した第三者委員会の報告書

 昨年(2015年)11月25日に金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで証券取引等監視委員会の強制調査を受けた村上世彰氏が、その後に自ら設置した第三者委員会(委員長=宗像紀夫・元東京地検特捜部長)のまとめた「相場操縦に当たらない」との調査報告書を、3月25日に証券取引等監視委員会に提出していたようです。

 これを受けて各報道機関も、あたかも村上氏への疑いが晴れたかのような報道をしていますが、大変に誤解を招く報道なので解説しておきます。

 まず第三者委員会とは、読んで字のごとく当事者と直接利害関係のない「第三者」で構成されるという意味ですが、その調査報告書が公式に効力を持つわけでも何でもありません。

 ただ2011年の大王製紙・巨額資金不正引き出し事件やオリンパス・巨額損失隠し事件のあたりから、当該会社と直接利害関係のない専門家(弁護士や会計士)が事件を調査して報告書を提出することが流行となり、それが社会的にも(時には捜査当局にも)公正かつ正確な調査・報告であると受け止められて現在に至ります。

 しかしこの第三者委員会とはあくまでも当該会社がメンバー選出も含めて設置し、具体的な調査内容を依頼し(調査してはいけない内容もしっかりと伝え)、もちろん(安くない)報酬も支払います。つまり第三者委員会の調査・報告とは、どうしても依頼者(当該会社)の意向を反映したものになります。

 最近の例では、2015年7月に提出された東芝第三者委員会報告書が、あとになってからその委員が事前に東芝に調査対象から外すべき事例(具体的には子会社・ウエスティングハウスの減損)についてお伺いを立てていたことまで露呈しています。2015年11月20日付け「とうとう出てしまった東芝第三者委員会出来レース」に書いてあります。

 村上氏に話を戻します。証券取引等監視委員会の刑事告発を担当する特別調査課の強制調査を受けた(つまり刑事事件の容疑者として捜査される可能性の高い)村上氏が、あくまでも個人の立場で第三者委員会を設置し、その代表に元・東京地検特捜部長の大物ヤメ検を据え、「相場操縦に当たらない」との調査・報告書が作成されたというだけの話です。

 本誌は、以前から「物言う株主」としての村上氏(だけではありませんが)の行動には全く賛同していません。どんなに綺麗ごとを並べても所詮は会社財産をかすめ取るか、持ち株を高く買い取らせる目的しかないからです。

 しかし今回の強制調査の容疑とされる相場操縦は、単に持ち株(あるいは借株)を「ちょっとたくさん売却しただけ」としか取れず、いかにも無理筋であるとも考えていました。

 そこへこの第三者委員会の調査報告書ですが、これにはいくつかの重大な問題があります。そう書いてくると、いったい本誌は村上氏を擁護しているのか批判しているのか?と言われそうですが、ここは「はっきりと批判」しています。

 最大の問題は、本来は捜査機関(この場合は証券取引等監視委員会東京地検特捜部)が方針を決め証拠を集め刑事事件として着手するシステムになっています。このシステムが国民にとって好ましいかどうかはともかくとして、勝手に第三者委員会(繰り返しですが当事者と直接の利害関係がない人物で構成されるという意味しかなく公式権限は何もありません)を設置し、自分が不利とならないと結論づけた調査報告書を報道陣に公表してしまったところです。

 確かに世間一般に受け止められている第三者委員会のイメージと、委員長が大物ヤメ検であることとあわせて、村上氏は自身をシロと印象づけて捜査当局を牽制するつもりでしょうが、全くの逆効果と考えます。

 捜査当局とすれば、まだ着手前の段階で「あなた方の捜査は見当はずれですよ」と言われたようなものだからです。本誌の経験でも、いくら大物ヤメ検でも「あれこれ」口を出されると捜査現場に煙たがられるだけで、効果はあまりありません。

 つまり村上氏は「墓穴を掘った」と感じます。

 そもそも今回の容疑である相場操縦とは、金融商品取引法や相場実務に照らし合わせるとかなりの無理筋と本誌も考えているため、こんな第三者委員会の調査報告書を先に公表するのではなく、堂々と捜査段階で主張すればよかったと考えます。

 まあその段階では「シナリオも証拠も都合よく固めらており手遅れになる」と考えたのでしょうね。これも確かにその通りですが、今後の成り行きに注目しましょう。2015年11月26~27日の「村上世彰らを相場操縦の疑いで強制調査 その1~2」も参考にしてください。