鈴木敏文氏の突然の引退で「感じること」

 発表からやや時間がたってしまいましたが、4月7日にセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)が突然に引退を発表しました。

 本来の4月7日はセブン&アイの2016年2月通期決算が発表される日で、連結では売上に相当する営業収益が前年比0.1%増の6兆457億円、営業利益が同2.6%増の3523億円、最終純利益が7.0%減の1609億円となりました。

 営業利益は5年連続で最高益を更新し、最終純利益の減益は傘下のイトーヨーカ堂そごう・西武百貨店の閉店に伴う構造改革費用を106億円計上したからです。

 セグメント別では国内に18572店舗(前年度末比1081店舗増)、海外では北米で8500店舗、中国で317店舗を運営するコンビニエンス事業の営業利益が前年比9.9%増の3041億円と、グループ全体の営業利益の86.3%(前年は80.6%)を稼ぎ出しているようにやや偏っていますが、全体的に何の問題もない決算内容でした。

 鈴木氏はそのコンビニエンス事業の「育ての親」であり、持ち株会社と傘下のセブンイレブン・ジャパンとイトーヨーカ堂代表取締役会長兼最高経営責任者、米セブンイレブンの会長を務める「完全なるグループの支配者」だったはずです。

 そんな鈴木氏が突然に引退を発表するに至った背景は、自らの人事案(セブンイレブン・ジャパンの井坂隆一社長の更迭)が役員会で否決されたからとも、創業家の伊藤雅俊名誉会長の支持が突然に得られなくなったからとも言われていますが、はっきりとしません。

 巷間囁かれるのは、更迭されそうになった井坂隆一氏を中心に反鈴木グループが形成され、創業家やアクティビストで株主であるサード・ポイントと連携を取りながら鈴木氏と次男の鈴木康弘取締役の追い落としを図ったクーデターだったということですが、だいたいそれに近いような気がします。

 そうすると「大変に嫌な感じ」がするところはサード・ポイントの存在と役割です。

 ダニエル・ローブ率いるサード・ポイントは2015年7~9月にセブン&アイの株式を取得したようで、同年10月には業績が低迷する総合スーパーのイトーヨーカ堂の切り離し、大幅増配、米セブンイレブンの米国での分離上場などを要求していたようです。

 こういうヘッジファンドは株式をストレートに取得することはなく、海外の証券会社からデリバティブを相対で取得して資金をあまり使わずに短期的な値上がり益を追求するスタイルが多く、サード・ポイントのようなアクティビストは(デリバティブの)取得と同時に発行会社に要求を突き付け同時にマスコミも動員して短期間で利益を得ようとします。

 時間がたてばたつほどコストがかさむ仕組みなので早期決戦となります。こういうアクティビストの撃退方法は、要求があっても「のらりくらりと時間稼ぎをする」ことで、勝手に資金負担に耐えられなくなって撤退してしまいます。

 ただこの辺までの要求は、アクティビストとしては一応筋が通っていました。

 ところがダニエル・ローブは本年3月27日にセブン&アイに書簡を送り「鈴木氏の次男の康弘氏をセブンイレブン・ジャパンの社長、将来的にはセブン&アイの社長に指名するとの懸念が株主の間に広がっている。サード・ポイントはセブン&アイの社長にはセブンイレブン・ジャパン社長の(今回更迭されそうになった)井坂隆一氏が最有力候補であるべきと考える」と指摘していたようです。

 これはアクティビストとしての発言とは思えないほど「稚拙」で、だいたい本年3月下旬に外部の株主が(その後に露呈する)人事抗争について知っている方が「おかしい」はずです。

 これは取得コストが5400~5500円と推測されるものの本年3月下旬には株価が4800円台まで下落して焦るダニエル・ローブと、井坂隆一氏自身が中心かどうかは不明ですが鈴木氏の追い落としを図るグループが「通じて」いたと簡単に想像がついてしまいます。

 だから「大変に嫌な感じ」がするのです。

 結果的には鈴木氏が引退してしまったため、今後のセブン&アイは「うるさく言う実力経営者がいなくなった後のサラリーマン経営者は途端に緊張感がなくなり、新たな抗争にうつつをぬかし業績拡大などどうでもよくなる典型例」になってしまう恐れがあります。

 鈴木氏も「あっさり」と引退した理由の中には、セブン&アイを引っ張ってきたコンビニ事業が「もうそれほど伸びシロがない」と肌で感じていたこともあると感じます。

 セブンイレブンの成長神話と1人勝ち状態は、鈴木氏の引退と共に「急速に」終焉を迎えるような気がします。セブンイレブン以外のセブン&アイは、もともと「ガラクタ」ばかりなので、グループ全体の勢いも「急速に」落ちてしまうことになります。