セブン&アイに見る指名報酬委員会の「破壊力」

 本誌は常に「過剰なコンプライアンス重視の風潮は企業活力を削ぎ、ひいては日本経済や株式市場を衰退させる」と考えていますが、まさにその通りとなった可能性があります。

 セブン&アイ・ホールディングス(以下「セブン&アイ」)は本日(4月19日)開催された取締役会で、中核子会社であるセブンイレブン・ジャパン社長・井阪隆一氏の社長就任を決議し、長年グループを率いてきた鈴木敏文会長と村田紀敏社長の退任を発表しました。

 井阪氏はセブン&アイの取締役ではないため、5月26日の定時株主総会で取締役に選任されてからの就任となり、鈴木・村田両氏の退任も同日付けとなります。またセブン&アイの会長ポストは廃止され、退任後の鈴木氏の処遇(最高顧問に就任するなど)は未定となりましたが、一連の流れから無役となり一切の関係が絶たれるような気がします。

 コトの発端は、4月7日の取締役会で自らの人事案(その井阪氏の更迭など)が過半数を取れず否決された鈴木氏が同日の2016年2月期決算発表の場で突然に引退を表明したのですが、その直前に自らの人事案が指名報酬委員会で承認されなかったところです。

 この指名報酬委員会とは最近のコンプライアンス重視の流れで出てきたもので、従来の株式会社とは異なる企業統治形態(コーポレートガバナンス)として委員会設置会社(指名委員会、監査委員会、報酬委員会などがあります)に移行する上場会社が増えています。

 これら委員会のメンバーは社外取締役が過半数を占め委員長も社外取締役が務めると定められており、位置づけこそ取締役会の諮問機関ですが、こと人事面においては取締役会よりも力を持つ可能性があります。

 セブン&アイの指名報酬委員会は本年3月8日に設置されたばかりで、2名の社外独立取締役(委員長も社外独立取締役)と鈴木・村田両氏の計4名で構成され、代表取締役、取締役、監査役執行役員の指名と報酬について審議すると定められています。
 
 設置しときには(つまり本年3月8日時点では)鈴木氏らがどのように認識していたのかは不明ですが、この指名報酬委員会とは見れば見るほど「強大な人事権限」を有していることになります。

 またその決定は当然に過半数(つまり4名のうち3名)の賛成が必要となるため、少なくとも2名の社外取締役が賛成しないと人事案が一切認められないことになり、事実その通りとなり長年グループを率いてきた鈴木氏が見事に「吹っ飛ばされてしまった」わけです。まさに表題に書いた指名報酬委員会の「破壊力」です。

 巷間では鈴木氏や井阪氏や創業者・伊藤雅俊氏らの間で確執があったと囁かれていますが、そういう次元の低いレベルで考えるべきではなく、「たった2人の社外取締役が長年グループを引っ張り業容と株主価値を拡大させてきた鈴木氏を、株主が全くあずかり知らないところで(確かに定時株主総会で井阪氏の取締役選任だけは付議されますが)トップ交代を含む大掛かりな人事変更を主導できた仕組み」になっていたという事実です。

 本日発表された人事案も、取締役会の前にその指名報酬委員会が承認していたのでスムーズに決定されただけです。その指名報酬委員会に鈴木・村田両氏が欠席すれば不成立になっていたはずですが、たぶん村田氏だけが出席して自分のクビを承認したのでしょうね。

 さて指名報酬委員会を牛耳る社外取締役(社外独立取締役ともいいます)も、その前に取締役に選任される必要がありますが、じゃあそんな重要な社外取締役候補は誰が選ぶのでしょう?
 
 最近のコンプライアンスコーポレートガバナンス重視の流れのなかで、どの上場会社も社外取締役を最低1~2名選任するように指導されていますが、だいたいどの上場会社でも「肩書きだけが立派で、いかにも経営を厳しく監視してくれるように見えて、できればあまりうるさいことを言わない人材」が重宝され、ひっぱりダコになっているようです。

 良い意味でも悪い意味でもワンマンだった鈴木氏は「とにかく肩書が立派な社外取締役を入れて、指名報酬委員会とやらも設置すればいいんだろう?」くらいに考えて候補者を選ばせ、見事に自分が追放されてしまったわけです。

 普通、上場会社を外部から支配するためには発行株式の過半数を握るか(膨大なカネがいる)、取締役会の過半数を握る(株主総会で大株主や一般株主の賛同が必要であり普通は不可能)必要がありますが、ここに新たに社外取締役を若干名だけ送り込んで指名報酬委員会メンバーに就けばよいという「金も要らない大変に簡単な方法」が新たに加わったことになります。

 肩書だけ立派な社外取締役候補を操り、これを悪用する勢力が(別に反社会勢力とは特定しませんが)、たくさん出てこないことを祈るしかありません。