三菱東京UFJ銀行の国債入札特別資格返上の意味するところは?

 本日(6月8日)付け日経新聞朝刊の1面トップに、三菱東京UFJ銀行国債入札特別資格(プライマリーディーラー)の返上を検討していると大きく報道されています。

 これはもちろん日経新聞の記者が独自に取材して獲得したネタではなく、またその後のメディア各社の報道も驚くほどに似通っているため、完全なるリーク記事です。

 そこで「誰が」「何のために」リークしたのかを考える必要がありますが、これはもちろん「大手銀行グループ」が「マイナス金利」に反対してリークしたものです。三菱東京UFJ銀行だけが国債保有にかかる将来的損失を懸念しているわけではなさそうです。

 ここで国債入札特別資格(プライマリーディーラー、以下「特別資格」)とは2004年に導入された制度で、すべての国債入札に相応な価格で(冷やかしではなく)発行予定額の4%以上を応札すること、基本的に発行額の1%以上を落札すること、国債流通市場に十分な流動性を供給するなどが求められます。

 そのかわりに財務省との会合に参加して意見交換ができる(時にはインサイダー情報もある)、買い入れ消却入札への参加、流動性供給入札への参加などが認められます。ただ国債入札自体は特別資格がなくても誰でも(個人でも)参加できます。

 現在の特別資格は22社が有し(当初は25社だった)、うち19社が内外の証券会社で銀行は3大メガバンク三菱東京UFJ銀行三井住友銀行みずほ銀行だけです。

 基本的には特別資格とは国債市場(あるいは債券市場)における情報面で優位となるため、あるいは特別資格を有すること自体がステイタスと考えられなくもないため、主に対顧客ビジネスを行う証券会社には「ある程度」必要な資格であるはずです。

 

 ここで特別資格を返上するといっているのは三菱UFJフィナンシャル・グループではなく三菱東京UFJ銀行で、三菱グループでは三菱UFJモルガン・スタンレー証券モルガン・スタンレーMUFG証券も特別資格を有しており、この2社は返上しないようです。

 つまり三菱東京UFJ銀行が特別資格を返上するといっても、もともとグループ内に3つも特別資格があり、それぞれがすべての国債入札において応札で4%、落札で1%の最低基準をクリアしなければならずグループ全体でみれば「無駄な負担」であり、1つくらいは減らしたいと考えていたはずです。

 三井住友フィナンシャルグループ三井住友銀行SMBC日興証券みずほフィナンシャルグループみずほ銀行みずほ証券とグループで2つずつなので、横並びになるだけです。

 つまり返上自体はそれだけのことで実質的な意味はほとんどありません。ここで重要なことは三菱UFJフィナンシャル・グループが大手銀行グループを代表して、そのアナウンスメント効果を狙っていることです。

 そのアナウンスメント効果とは、どの報道でも解説されているようにマイナス金利導入で10年の国債利回り・入札利回りまでマイナスになってしまったため、将来の損失を回避するために大手銀行の「国債離れ」が加速すると、世間および日銀を含む金融当局にアピールするためです。

 そしてここまで日銀を含む金融当局に決して逆らうことがなかった大手銀行が、マイナス金利導入に「遠巻きでささやかな抵抗」を示していることになります。

 3年目に入った「異次元」量的緩和に対しては、そうはいっても保有国債の含み益を拡大するため表だって批判することはありませんでしたが、その量的緩和にマイナス金利が加わった瞬間に長短すべての金利体系が想定をこえて大きく低下してしまったため「これは大変だ」となったわけです。

 また本年2月にはマイナス金利導入を受けて、大手銀行を含む金融界が広くベースアップを見送っていまいましたが、今回はそれに続く「遠巻きでささやかな抵抗」となります。

 つまり本日の三菱東京UFJ銀行国債入札特別資格返上とは、大手銀行がこういう「遠まきでささやかな抵抗」だけではなく、「異次元」量的緩和にマイナス金利が加わった日本経済にダメージしか与えない金融政策に、どこまで本気で抵抗できるのかのスタートラインになると考えます。

 大手銀行も自らの収益を気にしているだけですが、めったにないことに今回は日本経済にとっても利害が一致しているため、たまには日本経済のために頑張ってもらいたいと思ってしまいます。