ヘリコプター・ベン登場!

 前FRB議長のベン・バーナンキ氏が政府に招かれて来日しており、昨日(7月11日)は日銀を訪問して黒田総裁と、本日(7月12日)は官邸を訪問して安倍首相と意見交換したようです。

 表題のヘリコプター・ベンとは、バーナンキ氏がFRB議長時代に「あくまでも金融政策が完全に行き詰まった時には検討の余地がある」としてヘリコプター・マネーに言及したところから付いた名前です。もちろんバーナンキ氏が通常の金融政策のメニューとして考えているわけではなく、本当にヘリコプターから現金をばら撒くことをイメージしているわけでもありません。

 安倍首相との意見交換に同席した内閣官房参与浜田宏一氏によると、具体的にはヘリコプター・マネーに関するやり取りはなかったようですが、市場では昨日から「すわっ、追加金融緩和!」あるいは「ヘリコプター・マネー導入!」との期待が盛り上がり、本日の為替は1ドル=103円台、日経平均も16000円台を回復しています。

 もう少し正確に考えてみましょう。

 ヘリコプター・マネーとは1969年にミルトン・フリードマンが著書「最適貨幣量」で用いた言葉で、政府が直接現金や商品券を国民に配り、その財源は政府が発行する国債中央銀行が引き受けて賄うというものです。

 ポイントが2つあって、1つは国民にタダで現金や商品券を配るということ、もう1つはその政府の財源は中央銀行国債を引き受けてもらってタダで調達するというものです。確かに経済が完全に行き詰まり、政府にも民間にも資金が不足している場合には、期間限定であれば「それなりに」効果的であるはずです。

 

 問題はそれを、中央銀行である日銀から資金が「十分すぎるほど」供給され市中金利あるいは国債利回りがほとんどマイナスに沈んでいる現在の日本で行う意味です。

 「異次元」量的緩和がスタートする直前の2013年3月末と直近(2016年7月10日)の日銀のバランスシートを比べると、日銀の国債保有残高は125兆円から382兆円へと257兆円増えていますが、日銀券(現金のこと)発行残高は83兆円から96兆円へと13兆円しか増えていません。

 経済活動が拡大すると市中の現金発行残高が増大するはずですが、すでに3年以上も続く「異次元」量的緩和の結果、市中の現金発行残高は13兆円しか増えていません。その一方で日銀当座預金は58兆円から305兆円まで247兆円も増えています。

 要するに日銀は3年以上もかけてわずか13兆円の現金発行残高を増加させるために、257兆円のもの国債を純増ベースで買い入れたことになり、それなら市中現金残高を直接増加させる方法を考えた方がよいとなっても不思議ではありません。

 少なくとも日銀が国債を野放図に買い続けるよりは「マシ」のような気もします。しかし経済活動が拡大すれば結果的に市中現金残高は増えますが、かといって何かしらの方法で市中現金残高だけを増やしてもそれで経済活動が拡大するとは限りません。どこまで行っても日本経済に成長の「伸びしろ」があるかどうかの議論になります。

 国民に現金や商品券をタダで配るということは、所得減税でも消費減税でも同じ意味のはずです。昨日付け「信任されたアベノミクスの経済対策とは?」で消費税の免除を取り上げた理由は、これが最も消費増=経済活動の拡大につながるような気がするからです。

 早速「一時的な金で右往左往するほど日本の不況は短くなく、消費税復活時に落ち込むダメージの方が大きいはず」とのコメントを頂きました。それはその通りですが、それでも一時的にでも消費を回復させないと本当に日本経済が回復不能になってしまい「未来への希望」など意味がなくなってしまいます。

 ただヘリコプター・マネーで最も危険なところは、国民にタダで配るところまでは政策判断ですが、その財源を国債の日銀引き受けで賄うところは安直に政策判断で踏み込むべきところではありません。

 そこはしっかり予算化して歳出に組み入れなければなりません。突き詰めれば景気回復のための財政支出は、旧態依然の公共投資やリニアを前倒しで完成させることに使うのではなく、「国民に現金や商品券をタダで配ってでも消費を回復させるために使う」となります。

 これなら一考の価値があります。