ソフトバンクのARM買収

 ソフトバンクについては否定的な記事が多い本誌ですが、今回はあまり「突っ込みどころ」がありません。

 日本が祝日だった7月18日、ソフトバンクが英国のARMホールディングス(以下ARM)を総額243億ポンド(3.4兆円)で買収すると発表しました。

 先週末(7月15日)終値・1株=11.89ポンドに対し42.9%のプレミアムを加えた1株=17ポンドで全株を取得するようです。ちなみにARMの株価は英国の国民投票前日の6月23日は10.19ポンド、欧米株が揃って安値となった2月12日は8.55ポンドでした。つまり2月安値のちょうど2倍で買収することになります。

 1990年設立のARMは、CPUや半導体チップの設計に関する知的所有権を保有する会社で、製造部門がなく収入の大半がロイヤリティ収入とライセンス収入となります。ARMの強みはスマートフォンで、世界で出荷されるスマートフォンの9割以上にARMの設計した半導体チップが搭載されています。

 日本ではほとんど存在しない「世界中で誰が製造して誰が購入しても必ず儲かる会社」となります。

 ソフトバンクが発表した資料では、ARMの2015年の売上高は円換算で1791億円(15億ドル)、純利益が578億円(6.6億ドル)とあり、売上高純利益率は32%をこえています。つまりARMは潤沢なロイヤリティ収入とライセンス収入から研究開発費をふんだんに使って技術の陳腐化を防ぐ「技術と特許の塊のような会社」となります。

 ソフトバンクが支払う買収総額は2015年純利益の約60倍ですが、今後の市場の拡大とIoT(あらゆるものがネットでつながる世界)を見据えると、ソフトバンクの過去の買収のように「とんでもなく割高」という感じでもありません。

 本誌がいつも言う、国内の規制された(競争が排除された)携帯電話を中心とする国内通信事業が稼ぎ出す潤沢な営業利益(2016年3月期は6953億円)を国内利用者に還元せず、シナジー効果がよくわからない海外M&Aにつぎ込むことの是非は、今回はアリババやスーパーセルなどの売却代金で大半を賄うため投資ポートフォリオの入れ替えと考えれば「ある程度」納得できます。

 ソフトバンクとARMのシナジー効果はとりあえず「全くありません」が、それはここに始まったことではありません。

 つまり冒頭で書いたように、今回はあまり「突っ込みどころ」がありません。

 じゃあ、全く問題がないのか?というと、もちろんそうではありません。素朴な疑問は、そんなARMがなぜ慌ててソフトバンクに身売りするのか?です。

 孫社長によると買収交渉はわずか2週間前から始まったそうです。だとすると英国のEU離脱決定直後からだったことになり、やはりARMの経営陣や主要株主は英国EU離脱がARMの将来に大きな影を落としていると理解して売却を急いだと考えられます。

 買収交渉がたった2週間ではとても詳しい資産査定はできません。ARMの資産といっても大半が特許やロイヤリティ、ライセンス契約など無形資産なので、ざっと見ただけでは英国EU離脱によるダメージなどは見極められません。

 また孫社長は記者会見で経営陣はそのまま残ると明言していますが、孫社長を含むソフトバンクから役員を派遣するかについては明言を避けているところも気になります。

 本日(7月19日)のソフトバンクの株価は620円安(10.3%安)の5387円となり、たった1日で時価総額を7440億円も吹っ飛ばしてしまいました。大型買収を発表した直後の株価は下落することが一般的で、2012年10月にスプリント買収を発表した直後にも2200円まで下落していましたが、今回はやや意外な下落幅でした。

 そのスプリントの株価も、ソフトバンクのテコ入れが期待されて1月の2.5ドルから先週末には5.0ドルまで上昇していましたが、7月18日には4.75ドルまで5%下落しました。

 スプリントは業績の裏付けがないため、株価はもう少し下落するかもしれません。

 ソフトバンクの過去の大型買収に比べると「突っ込みどころ」が少ないARM買収ですが、皮肉なことに(日本の)株式市場は「意外と冷静に」受け止めているようです。久々にソフトバンクの株価を眺めることが増えそうです。