追加緩和は「まだ可能」? その1

 少し時間が経ってしまいましたが日銀の黒田総裁は9月5日に都内で講演し、「マイナス金利幅の拡大も、量的緩和の拡大も、まだ十分可能だ」と述べました。また「(追加緩和を)躊躇すべきでない」と繰り返し、9月の総括検証は「緩和の縮小という方向の議論ではない」と言い切りました。

 時期はともかくとして「追加緩和しますよ」と言っていることになります。同日付けの日経新聞夕刊は一面トップで黒田総裁の写真入りで伝えています。最近は知りませんが、一昔前は日銀総裁の顔写真入り記事は日銀の「本気のメッセージ」とのサインだったため、それなりの決意を表明しているのかもしれません。

 さて前回(7月28~29日)の政策決定会合はETFの買入枠拡大が決定されたものの、マイナス金利幅の拡大と量的緩和の拡大は見送られ、また9月の決定会合では過去の金融緩和の「総括検証」を行うと公表されていました。

 黒田総裁が就任直後に「異次元」量的緩和に踏み切って3年半が経過しますが一向に景気が上向く兆候が見られず、日銀が唱える2%の物価上昇も同様であるため、さすがに「言い訳」をしておく必要があると考えたのでしょう。

 

 黒田総裁は元大蔵官僚であり、現在の日銀も完全に旧大蔵省傘下ですが、そもそも官僚というものは絶対に「間違っていました」と言わないもので、何か外的要因をあげて「政策は正しいにもかかわらず、こういう外的要因があったためその効果が阻害されている」というしかありません。

 たしかに中国経済の減速とか、原油など資源価格の低迷とか、英国のEU離脱とか「格好の外的要因」が山ほどあるため、こういう外的要因によるマイナスがあるため「現在の正しい金融政策を一層強化する必要がある」という「総括検証」となりそうです。

 そこでこういう官僚のプライドだけに任せておいて大丈夫なのか?ですが、もちろん全く大丈夫ではありません。そこのところを「冷静に検証」してみましょう。

 そもそも現在の日銀の量的緩和とは、リーマンショック直後の2008年11月からFRBMBS住宅ローン担保証券)を中心に1.7兆ドルを買い入れたQE1と、2010年11月から長期国債を6000億ドル買い入れたQE2を真似たものです。

 ところが当時の米国とは、16兆ドルほどのGDPに対して13兆ドルの住宅ローンが存在し、そのうち7兆ドルほどが証券化されMBSとして世界中にばらまかれていたのですが、そこから住宅ローンが大量に焦げ付き、FNMAとFHLMCが瀕死の状態となり、MBS市場が完全に凍り付いてしまいました。

 そこで苦し紛れに考え出されたのが、市場に溢れかえっているMBSFRBに押し込むQE1であり、次いで長期金利を押し下げてこれも瀕死の住宅(不動産)市場を活性化させるためのQE2だったわけです。

 そしてFRBは、ケース・シラー住宅価格指数(主要10都市)が前年同期比で12%をこえて上昇していた2013年5月にバーナンキ議長(当時)が量的緩和(当時はQE3)の縮小に言及し、実際には2014年1月から縮小をはじめ、完全に終了した2014年9月には5%を下回っていました。

 つまりFRBの金融政策とは100%住宅(不動産)市場を睨んだものであり、直近(2016年6月)のケース・シラー住宅価格指数は5.1%の上昇でしかなく、本誌はまだFRBが本当に利上げする環境にないと考えています。

 翻って日銀は、何のために量的緩和をこれからも続ける必要があるのでしょう?2013年4月に「異次元」量的緩和に踏み切ったとき、その目的を「2%の物価上昇目標の実現のため」と説明していました。現在も変更していません。

 ここで景気が良くなれば物価も2%くらい上昇しているかもしれませんが、物価を2%上昇させれば景気が良くなるというのは間違いです。さらに日銀が国債を「異次元」に買い続けると物価が2%上昇するというのは「もっと」間違いです。

 つまり日銀の「異次元」量的緩和とは、最初からFRBのような明確な目的などなく、さらに理論的な根拠などもっとなく、ただFRB量的緩和を真似しているだけです。

 そして一向に効果が出ないため(単純に2014年4月から消費税を8%にしたからですが)2014年10月に追加量的緩和に踏み切り、当然のようにそれでも効果が出ないため、今度はECBの真似をしてマイナス金利にまで踏み込んでしまいました。

 次回はECBのマイナス金利と日銀のマイナス金利の「決定的な違い」についてです。