自社株買いについてちょっと考えてみよう

 本日(10月19日)付け日経新聞朝刊の1面トップ記事に、上場企業の自社株買い実施額が2016年1~9月に4兆3000億円に達し、年間で最高だった2015年の4兆8000億円も上回る可能性が強まっていると出ています。

 一方で同期間の新株発行による資金調達額(公募増資と新株予約権社債の合計)は7200億円と、4年ぶりの低水準に留まっているとも出ています(第三者割当増資や過去に発行された新株予約権の行使などは含まれていません)。

 つまり上場企業は2016年1~9月に、差し引き3兆6000億円も株式市場に「返還」したことになります。実は2011年以降の上場企業は毎年、差し引き数千億円ずつ「返還」しているのですが、本年は加速度的に「返還」が増加していることになります。

 本来の株式市場は「資金調達の場」であると教科書には出てきますが、ここ数年の日本の株式市場は「資金返還の場」であることになります。

 また上場企業の年間配当総額も10兆円をこえています。

 世界的に株式市場では、配当と自社株買いを合わせた株主還元が率・額とも大きければ大きいほど株式市場における評価が高いため、ますます自社株買いが増える傾向にあります。

 また日本の上場企業には100兆円をこえる現金があるとか、有望な投資対象が少ないとか、さらに金利水準が低いため低コストで社債発行ができるのでますます資金が余剰になるなどの理由もありますが、ちょっとここで自社株買いの経済的な意味について考えてみましょう。

 直近の東証1部全銘柄の平均ではPERが15.17倍なので、自社株買いを「投資」と考えれば、理論的にはその期待収益率は6.6%(PERの逆数)もあることになります。

 また東証1部全銘柄の配当利回り(加重平均)は2.13%もあり、自社株買いを行った株式(金庫株)には配当を支払わず、また配当そのものも税金などを支払った後の利益処分であるため、自社株買いを「投資」と考えればその利回りは2%を大きくこえていることになります。

 直近の日本経済の潜在成長率はゼロ近辺であるといわれており、10年国債利回りまでマイナスである中で、「突出して有利な投資対象」となります。

 もちろん上場企業という「一部のエリート企業」だけが得られる特権であるとはいえ、あまりにも現実との間に大きなギャップがあると感じます。

 つまりどこかがおかしい可能性があり、直感的にはPERつまり上場企業の長期的な利益水準が高く見積もられ過ぎており(高すぎる株価水準の自社株買いとなっている可能性があり)、配当は日本経済あるいは個別企業の体力をこえた大盤振る舞いで企業体力を損ねているような気がします。

 またその自社株買いで取得した株式(金庫株)を、惜しげもなく消却してしまう例もあります。

 昨日も登場したソフトバンクは、10月31日付けで1億株・時価総額で約6500億円を消却すると発表しています。ソフトバンクは本年2~8月だけで約5000億円の自社株買いを実施していたため、その5000億円も含む6500億円を株式市場に「返還」したことになりますが、もっと正確には「捨ててしまう」ことになります。

 この1億株はソフトバンクの発行済み株数の8.33%に相当するため、それだけソフトバンク株式の各指標が向上するとか、直接的には44億円(1株=44円)の配当支払いが軽減されることにはなりますが、それが6500億円を「捨ててしまう」ことに釣り合っているのか?は、難しい問題となります。

 ソフトバンクは連結で12兆円をこえる有利子負債を抱えており、いくら低金利といっても、いずれは返済あるいは償還しなければならない12兆円のはずです。それを全く返還義務のない発行済み株数を買入れ、多少は株価に対するプラス効果は期待できるとはいえ、このように「捨ててしまう」ことが全体として正解なのかは考えてみなければなりません。

 本日の日経新聞を見て考え込んでしまったのですが、まだよくわかりません。よろしかったらご意見をコメント欄にお寄せください。