トランプの経済政策と米国金融市場の反応

 トランプ「新政権」の経済政策はまだ全貌が明らかになっていませんが、オバマ政権時代よりかなり高い経済成長を目指しているようです。

 具体的には最初の2年間で2500万人の雇用創出、35%から15%への法人減税、1兆ドルのインフラ投資など、あくまでも「米国内の」経済活動を活発化させて現在のほぼ2倍である3.5%成長を目指すようです。

 そう考えると移民排斥は米国人の雇用確保のため、メキシコ国境の「壁」建設は大型公共投資と、経済対策だったのかもしれません。

 ここで大変に重要なことは、米国の1995~2004年の実質経済成長率は前年比平均で3.4%だったところ、直近の2016年1~9月期は1.5%でしかありません。日本ほどではありませんが、米国でも潜在成長率が低下していることになります。その最大の理由が労働生産性の低下のはずで、1995~2004年の労働生産性の伸びが前年比平均で2.8%だったところから、2016年7~9月期には何と前年同期比0%となっています。

 つまりトランプは潜在成長率と労働生産性が低下している中で、経済成長率を現在の2倍に引きあげようとしています。これまでなら米国内の労働生産性が伸びなくても海外の安い労働力を使うことによってカバーしていたのですが、米国内の労働力を優先的に使えば必然的に企業収益は低下します。

 さらに経済成長率を引き上げるために財政支出を拡大しても、収益が伴わないハコモノが積み上がるだけで(メキシコ国境の壁も同じです)持続的な経済成長は期待できず、それに減税が加わると大幅な財政赤字となり、株式や不動産などの資産価格は一時的に上昇するもののインフレ加速と長期金利上昇を招くはずです。

 そうなると当然にFRBは利上げに追い込まれ、ドル高となり、発展途上国の経済を混乱させ、合わせて結局は米国経済の足を引っ張ることになります。つまりトランプ「新政権」の経済政策はわかりやすく短期的効果はあるはずですが、どう考えても時間が経過すると無理が出てくるような気がします。

 しかし金融市場はすでにこのトランプの経済政策を先取りしています。

 

 大統領選挙の前週末(11月4日)から昨日(11月14日)までを比較すると、米国10年国債利回りが1.77%から2.26%まで0.49%も上昇しています。2年国債利回りも0.78%から1.00%まで上昇しており、ともに本年初めの水準に戻っています。

 本年初めといえば、昨年12月にFF誘導金利の上限を0.25%から0.50%に引き上げる利上げが行われた直後で、さらに年4回(計1.0%)の利上げが行われると予想されていた時期です。短期金利の代表である2年国債利回り長期金利の代表である10年国債利回りも、すでにその時の水準に戻っていることになります。

 すでに新規の借入れが急増しているわけではないはずですが、「これからの借入れ金利」はすでに上昇していることになり、実際にここから設備投資のために借入れが急増するとも思えません。

 一方でNYダウは、11月4日の終値・17888ドルから11月14日の終値・18868ドルまで980ドル(5.4%)上昇して史上最高値を更新しています。とくに巨額インフラ投資への期待から重厚長大産業や、金利上昇による収益の拡大期待から銀行の株価が上昇していますが、アップルなどこれまでの株価上昇を牽引していたIT企業の株価は冴えません。

 為替市場でドルは、対円で同期間のNY終値で1ドル=103.07円から108.40円へ5.1%上昇し、対ユーロでも1ユーロ=1.1138ドルから1.0740ドルへ3.6%上昇しています。

 トランプ勝利を受けて、まず米国の金融市場が長短金利高・株高・ドル高で反応しています。つまりこれから「米国内の」経済活動を活性化する前に、すでに長短金利上昇・ドル高となってしまい、それがFRBの利上げを確実なものにしてしまい(現状では12月に利上げが完全に必要となります)、すでに新興国経済・金融市場に混乱の兆しが出ています。

 だから原油価格を含む商品市場が、むしろ下落気味となっていると考えます。世界の生産活動を最も反映する銅価格だけはかなり上昇していますが、これは大統領選前の10月下旬から上昇しており、ここ数日は下落気味です。

 翻って日本市場では、日経平均がトランプの勝利確定となった11月9日の終値・16251円から本日(11月15日)終値・17668円まで1417円(8.7%)も上昇しています。NY株高と円安だけを材料としているなら、そろそろ冷静になって考えてみる水準に到達しているかもしれません。