モンテ・パスキは欧州金融界における「火薬庫のスイッチ」 その2

 12月22日付け「同題記事」の続きですが、そのモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(以下、モンテ・パスキ)は22日が払込期限だった30億ユーロの新株払い込みがなく、完全に「お手上げ」となり取引所の株式売買も停止されました。

 その前日の21日が期限だった20億ユーロの劣後債の株式化は個人投資家の申し込みで予定額に達していたのですが、肝心の機関投資家向け新株発行はカタール政府系ファンドが10億ユーロの払い込みを拒否した段階で失敗となりました。

 つまりモンテ・パスキは破綻に瀕しているわけで、まさに欧州金融界における「火薬庫のスイッチ」がONとなったはずでした。ここで「火薬庫」とは全体で3600億ユーロ(44兆円)の不良債権を抱えるイタリア銀行界のことであり、その中でも内容が飛び抜けて悪いモンテ・パスキが破綻すれば、まさにその「火薬庫にスイッチが入る」ことになります。

 ちなみにこの3600億ユーロとはイタリアGDPの22%に相当します。大雑把な比較ですが、1990年に弾けた日本のバブルの損失合計は約100兆円で、これは当時の日本の名目GDP・450兆円の22%が棄損したことになります。またリーマンショック時のMBSによる世界の損失合計は約2兆ドルで、これは当時の米国住宅ローン残高・12兆ドルの16%が棄損したことになります。

 つまりイタリアの銀行全体にある3600億ユーロの不良債権とは、過去の日本のバブルやリーマンショック時の米国住宅バブルと比較しても、十分に破壊力のある「火薬庫」となります。

 しかしいよいよ「火薬庫にスイッチが入った」と身構えたものの、その直後のイタリア政府の動きは珍しく電光石火で、早くも12月23日未明にジェンティローニ首相がモンテ・パスキの公的支援閣議決定したと発表しました。

 

 このジェンティローニ首相とは、12月4日に憲法改正を巡る国民投票に敗れて辞任したレンツィ前首相の後任で暫定首相のようなものです。そのレンツィ前首相が辞任した直後は、モンテ・パスキを含むイタリアの銀行支援体制に暗雲が立ちこめたと懸念されていたはずですが、あっさりと公的支援が決定されたことになります。

 おまけにイタリア政府の銀行セクターへの支援資金は当初の150億ユーロから200億ユーロ(2.4兆円)に拡大されましたが、イタリア議会が異議を挟んだ形跡もありません。さらに最大の難関であるEUによる再建策(公的支援策)承認まで「問題ない」と週末には報道されていました。

 これをうけて先週末(12月23日)にかけて当のイタリア株式市場をはじめ、ほぼ世界中の株式市場が上昇していました。

 じゃあ今までこのモンテ・パスキの経営危機だの、欧州銀行監督機構(EBA)のストレステストだの(モンテ・パスキとアライド・アイリッシュが不合格)、ドイツバンクデリバティブ残高だの、同じドイツバンクMBS不正販売の巨額罰金だの(同じく先週末に72億ドルで和解しています)、何度も欧州の銀行を巡る不安材料が世界の株式市場を直撃していた「騒ぎ」はいったい何だったのだ?といいたくなります。

 そんなに簡単に(どこからも文句が出ず)公的支援が行われるなら、今までも何の心配もなかったはずだからです。

 そう考えていたら本日(12月26日)になって、やはり問題が出てきたようです。

 そもそもEUは、破綻に瀕した銀行の救済コストを納税者ではなく、その銀行の債権者(主に劣後債保有者)や株主に負担させる枠組み(Bail In Rule)でなければ承認しないことになっていますが、今回のモンテ・パスキの公的支援はそう見えません。

 報道ではモンテ・パスキの債権者(主に劣後債保有者)のうち、機関投資家は25%をカットしたのち株式に転換するとなっていますが、その転換条件が不明です。つまり機関投資家は実際に救済コストを負担しているかどうかが不明です。

 さらに4万人もいる個人の劣後債保有者は(21日までに株式化を申し込んだ保有者もその劣後債が返却されています)、複雑な仕組みとなっていますが要するにまるまる政府が買い取ることになっています。その理由は「個人投資家はリスクを意識せずに劣後債を購入していたから」だそうです。まあその通りなのかもしれませんが明らかな詭弁です。

 つまり債権者(劣後債保有者)は全く救済コストを負担しない可能性が強く、イタリア政府は明らかに「どさくさに紛れてEUの承認を取り付け、すべて公的資金で(つまり税金で)処理してしまおう」と考えていたようです。

 だから週末を挟んで電光石火で片づけようとしていたわけです。しかしEUにバレてしまうのは時間の問題でしょう。

 最初から直感的に年末年始最大の「イベント」と考えていましたが、早急に続編を書くことになりそうです。