トランプ税制の衝撃

 1月20日に発足するトランプ新政権の経済政策とは、設備投資も雇用も資金まで米国に集中(回帰)させる「米国だけ優先した経済政策」であることは間違いありません。

 トランプ当選前の2015年7~9月期にすでに米国経済は回復しており(実質成長率が3.5%もあった)、同時に雇用状況も大幅に改善していた中で、さらに設備投資と雇用を最もコストの高い米国に集中させるため間違いなくインフレとなり、一方で米国以外の国には(メキシコだけでなく日本も中国も)経済成長を阻害することになります。

 そのトランプ新政権の経済政策の中で、間違いなく「最大の衝撃」となるのが輸出入に関する法人税体系の改革です。もちろん税制の決定権限は議会にありますが、上下院で多数を握る共和党も基本的には反対していないようで、多少の修正は加えられてもそのまま成立してしまう可能性があります。

 トランプの掲げる法人税体系の改革とは、法人税率を35%から15%に引き下げて米国企業の(正確には米国で事業を行う企業の)競争力を強化しようとしていますが、それに「米国からの輸出を免税」「米国への輸入は課税強化」が加わります。

 まず「米国からの輸出は免税」とは、輸出で稼いだ利益には税金がかからないということで、米国からの輸出品が値下がりして米国企業の競争力が高まるだけでなく、米国での生産活動へのインセンティブともなります。

 一方で「米国への輸入は課税強化」とは、現行では米国企業が原材料や部品を輸入すればコストとして差し引いて課税所得が計算されていますが、それが差し引けなくなり大幅増税となってしまいます。

 輸出促進で経済を発展させようとする新興国のような税制を、世界最大の経済大国である米国が断行しようとしているわけで、これはトランプの経済政策の中でも「最大の衝撃」となります。

 実質的には「輸出補助金」「輸入課徴金」に相当するもので、WTO(世界貿易機関)のルールに抵触する可能性もありますが、共和党案では課税対象を「所得」から「キャッシュフロー」に置き換えてクリアしようとしています。

 決して単なるトランプの思いつきではなさそうです。

 ここで重要なことは、いわゆる付加価値税(日本の消費税も含む)では基本的に同じようなルールが国際的に適用されています。例えば日本では、海外からの輸入品にも8%の消費税がかかりますが、輸出では原材料等の輸入に支払った消費税は製品の輸出時に還付されています。輸出先でまた付加価値税が課税されるため二重払いを避けるためです。

 ところが米国には全国共通の付加価値税(消費税)がないため、そもそも米国企業は輸出の際の税還付がなく輸出先では付加価値税が課税されるため、もともと輸出が不利とされていたことは事実です。

 そこで米国における法人税の体系そのものを変えようとしているわけですが、これだと輸出で稼いだ利益がすべて免税となるため、はるかに強烈な輸出振興策となります。

 逆にトヨタ自動車など日本の製造業が米国で生産しても、その部品などを米国以外から輸入していれば(実際にほとんどを輸入しています)、その分をコストとして認識できないため大幅増税となってしまいます。

 法人税が大幅に引き下げられるため、その不利はいくぶん緩和されるものの、何よりも米国への直接輸出は(メキシコからの輸出であっても)圧倒的に不利となります。

 さてこの効果はどうなるのでしょう?

 いうまでもなく2016年に4700億ドルほどだった米国貿易赤字が「劇的」に減少し、そのうち3700億ドルほどの赤字だった中国経済が最も影響を受けるはずです。

 これ自体はドル高要因ですが、今度はドル高と賃金上昇などによる競争力低下が米国企業に覆いかぶさるはずです。だいたいトランプの経済政策とは米国優先であり「米国以外の経済成長を阻害する」ものであるため、そのうち高くなった米国製品を輸入できなくなってしまいます。

 結局のところ、この税制改革に限らずトランプの経済政策とは「上に乗っているチーズ(世界経済)を無理やり真ん中(米国)に集め、そこだけ急激に加熱して爆発させてしまい、回りは火が通っていない全く食べられないピザ」を作ってしまうことになりそうです。

 ただ本年は「世界的にバブル元年」となりそうで、しばらくは誰も気にしないことになりそうです。