カルロス・ゴーンが日産自動車CEOを退任する意味

 本誌がいつも「ルノーに食い尽くされている」と書く日産自動車ですが、2月23日の午前8時に突然カルロス・ゴーン氏が社長とCEOを退任して代表取締役会長となり、西川廣人(さいかわひろと)氏が4月1日付けで代表取締役社長・単独CEOになるとの「そっけないIR」が出されました。

 西川氏は2016年11月に共同CEOとなっていましたが、IRから一週間たつものの記者会見も行われていません。

 そうはいってもゴーン氏は親会社・ルノーのCEOであり、引き続きグループを引っ張ることは変わりません。また日産自動車は2016年10月に2373億円を出資して三菱自動車の34%を取得し支配下に入れており、ゴーン氏はその三菱自動車代表取締役会長も兼ねています(CEOは益子修氏)。

 ゴーン氏は「三菱自動車の再建などにもっと力を割かなければならない」さらに「今こそ西川氏にCEOを引き継ぐタイミングであると判断した」とだけ話しています。

 ゴーン氏といえば2013年8月にルノーでNo.2だったタバレスCOOを「自分の地位を狙っている」との奇怪な理由で解任しています。タバレス氏は直後にライバルのプジョーシトロエングループ(PSA)CEOにスカウトされています。

 また日産自動車が2014年3月期に大幅減益となり円安で潤う日本の自動車会社で「一人負け」となったときも、名目No.2の志賀COOと実質No.2のドッジ副社長を閑職に追いやり、西川氏を含む3人にCOO職を分担させたものの、自らは何の責任も取らずに居座っていました。

 ゴーン氏は「権限はすべて抱え込み絶対に手放さないタイプ」のようで、これはレバノン系ブラジル人でありフランスでは決してエリート(特権階級)ではないゴーン氏の処世術であるはずです。そう考えると今回の退任は、実質的な権力構造は変わらないとは言え、やはり違和感があります。

 ゴーン氏にとって最優先課題とは、ルノーCEOとして実績を上げてフランス社会での評価を上げることであり、日産自動車三菱自動車を「超一流」に仕上げてもほとんど意味がありません。

 そこで本誌がいつも書くように「日産自動車をせっせと食い尽くし、そのうち残骸だけにしてしまう」となるわけです。

 ルノーは1999年3月に日産自動車の第三者割当増資を14.64億株、2002年3月にワラント行使で5.4億株を、それぞれ1株=400円で引き受け、合わせて8016億円で日産自動車の44.4%を取得して支配下に入れました(現在の持ち株は43.4%)。

 ここでルノーが出資した8016億円は、その後の配当とワラント行使に合わせてルノーの15%を2470億円で取得させたため(議決権なし)、もうすっかり回収しています。さらに日産自動車は、本来はルノーが投資すべきタンジール工場(モロッコ)の建設費やアフトワズ(ロシア)への出資金の大半を負担し、ルノーに生産ラインや開発チームを提供し、国内資産を極限まで売却させられています。

 先ほどのゴーン氏の発言も「これからは三菱自動車を本格的に食い尽くすために力を割く」、日産自動車は「もうあらかた食いつくしてしまった」あるいは「これからは西川氏に任せておけば引き続き食い尽くしてくれる」という意味にとれます。西川氏はその忠誠心でゴーン氏に引き上げられたはずだからです。

 さて西川体制となる日産自動車の今後は、以前よりゴーン氏の経営陣に対するプレッシャーが少なくなるはずで、経営の緩みは避けられないはずです。

 それより最大の懸念は大統領選挙を控えたフランス政府の(ルノーを通じた)日産自動車への支配強化(子会社化)が再燃することです。前回(2015年)は日産自動車CEOも兼ねるゴーン氏が逆に抵抗した形となって、日産自動車が「日本の会社でなくなる」事態は回避されました。

 フランス次期大統領は、極右のルペンか、2015年に日産自動車への支配強化(子会社化)を主導した張本人であるマクロンの「どちらか」と考えます。

 つまりルペンかマクロン大統領、フランスでの評価を上げたいルノーのゴーンCEO、そのルノーとゴーンCEOに忠誠心を示す日産自動車の西川CEOの組み合わせでは、次に日産自動車への支配強化(子会社化)が出てくると今度は回避できないような気がします。

 そんな予感がする今回の日産自動車のゴーンCEO退任でした。