摩訶不思議なオリンパス元取締役への巨額賠償命令

 オリンパスについては新刊本を準備中であるため、発刊までは新しい記事の掲載を控えていますが、東芝など今後の巨額損失事件にも影響する摩訶不思議な巨額賠償命令が言い渡されたので解説しておきます。

 2011年に発覚したオリンパスの巨額損失隠し事件につき、東京地方裁判所(大竹昭彦裁判長)は菊川・元代表取締役らに対し、合計587億円余をオリンパスに支払うよう命じました。

 その内訳は、刑事事件でも有罪となった菊川氏と山田・森の両元取締役副社長がそれぞれ587億8596万8936円、それに対して下山・岸本の両元代表取締役がそれぞれ1億円(下山氏は亡くなっているため3名のご遺族に引き継がれます)、中塚・元取締役が2986万円、残る元取締役全員はすでに和解済みで請求なしと、かなりの差がつけられました。

 この請求金額は全員の連帯債務であり(それぞれに上記の上限があります)、請求金額合計も最大請求額と同じ587億円余となります。現実的ではありませんが例えば菊川氏が587億円余を支払うと、残る全員の支払いは免除されます。

 もちろん本誌は587億円もの賠償命令が「不当だ」とか「やり過ぎだ」と言っているわけではありません。新刊本の中でも明らかにしますがオリンパス事件とは刑事裁判で認定されたように「指南役」に主導されたものではなく、100%オリンパスが立案・実行したもので、その最大の責任は菊川・山田・森の各氏らオリンパス幹部にあると確信しています。

 それでは今回の裁判所の決定は、どこが摩訶不思議なのでしょう?

 巨額損失に係る事件が発生すると、必ず株価下落で損害を被った株主は会社に対して損害賠償請求訴訟を提起します。また株主は関与した取締役らに直接損害賠償請求訴訟を提起することもありますが、普通は損失額を取締役らが会社に弁済することを求める株主代表訴訟を提起します。

 オリンパスの場合は株主から合計856億円の損害賠償を請求されていたはずですが、オリンパスも元取締役19名に対し合計36億1000万円の損害賠償を請求していました。これも連帯債務であり、最大請求金額は菊川氏の36億1000万円で、同時にこの金額が請求金額の総額となっていました。

 実は会社(オリンパス)が元取締役に損害賠償を請求するのは「親心」でもあります。放っておくと元取締役に対して株主代表訴訟が件数も金額も際限なく提起されるため、会社があらかじめ「妥当な金額」の損害賠償を請求しておきます。そうするとその後の株主代表訴訟を回避できる効果があるからです。

 これは会社が元取締役らに損害賠償を請求すると、株主がその後に株主代表訴訟を提起できなくなるという意味ではありませんが、もともと株主代表訴訟は勝っても賠償金は会社に支払われるため、会社が代わって請求すれば同じことだからです。

 あの東芝も、すでに株主から502億円の損害賠償を請求されているはずですが、東芝は2015年11月に歴代3社長を含む5名の元取締役らに対し合計3億円(だけ)の損害賠償を請求しています。もちろんこれも「親心」で株主代表訴訟が提起される前に「素早く」請求したのですが、さすがに後から合計32億円に増額しています。

 そこで今回のオリンパスの巨額賠償命令に戻りますが、菊川氏はオリンパスから36億1000万円、山田氏は30億1000万円、森氏は28億1000万円をそれぞれ請求されていましたが、それが3名とも突然に587億円になってしまいました。

 一応は民事裁判なのでオリンパスの請求金額以上の賠償命令となることはないはずですが、どうも株主代表訴訟が1件提起されており、それが東京地方裁判所で併合されたため、その株主代表訴訟の請求金額がそのまま適用されてしまったようです。

 まあ菊川氏の場合、36億1000万円でも587億円でも「支払える金額ではない」ことは同じかもしれませんが、大変に摩訶不思議な東京地方裁判所の決定となります。株主代表訴訟は請求金額に関わらずタダみたいな裁判費用でいつでも提起できるため、せっかく会社が「親心」で妥当な損害賠償を請求していても、株主代表訴訟が加われば突然に天文学的な賠償命令になってしまうことになります。

 東芝の歴代3社長らへの損害賠償請求でも、同じことが起こりそうです。

 ちなみに今回の決定を言い渡した大竹昭彦裁判長は、東京電力の勝俣・元代表取締役ら5名に対して提起されている総額5兆5045億円という史上空前の株主代表訴訟(昨年その請求金額が東電の損失拡大により9兆482億円に増額されています)の裁判長も務められています。

 東京電力は勝俣氏らに「親心」がなかったことになりますが、大竹裁判長も「大きい金額」がお好きなようなので、東京電力でも「アッと驚く」巨額賠償命令が見られるかもしれません。

 2011年に発覚したオリンパス事件ですが、いまだに「新たな驚き」が飛び出してくる事件でもあります。新刊本では新事実も含めて「余すところなく」盛り込もうとしています。