ヘッジファンドの巨人たち(2016年)

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 毎年この時期に前年のヘッジファンド主宰者高額所得ランキングが発表されるので、それに合わせて毎年書いている話題です。ヘッジファンドそのものの収益ではなく、あくまでも主宰者の個人所得ランキングです。

 昨年(2016年)のヘッジファンド業界全体のリターンは5.4%しかなく、11.9%だったS&P500にリーマンショック以降8年連続で負けています。毎年1.5~2.0%の運用報酬に加えてリターンの20%の成功報酬を受け取るヘッジファンドが、タダみたいな運用手数料のS&P500などインデックスファンドに負け続けていることになります。

 さすがに昨年はヘッジファンド業界全体で700億ドル(8兆円)の資金流出となったようですが、それでも業界全体で3兆ドルほどの残高があります。

 また昨年の上位10名の所得合計は76億ドル(8500億!)と、信じられない金額ですが、それでも2014年の116億ドル、2015年の100億ドルから減っています。

 さて2016年の高額所得ランキング1位は、クォンツ型ヘッジファンドの雄・ルネッサンス・テクノロジーズ創業者のジェームス・シモンズ氏で16億ドル(1800億円!)でした。天才数学者のシモンズ氏は79歳で、もうとっくに第一線を退いているはずですが、前年の17億ドルに続いて2年連続の1位となりました。前年(2015)は後から出てくるグリフィン氏と同額の首位でしたが、昨年は単独首位(たぶん初めて)となりました。

 またルネッサンス・テクノロジーズ現CEOのロバート・マーサー氏はケンブリッジ・アナリティカの最大のスポンサーであり、トランプ政権にもスティーブ・バノンを送りこんでいます。2月23日付け「ケンブリッジ・アナリティカとは?」に書いてあります。

 そして2位が、世界最大規模のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツ創業者のレイモンド・ダリオ氏で14億ドルでした。ブリッジウォーターは複数のヘッジファンドを運用していますが、典型的なグローバル・マクロ型です。

 そして3位と4位には、トゥー・シグマ・インベストメンツ共同創業者であるデヴィッド・シーゲル氏とジョン・オーバーデック氏が、同額の7.5億ドルで初めて上位にランクインしています。

 このトゥー・シグマ・インベストメンツは2001年創業で、2人の共同創業者が微妙に違う専門分野を生かして共同開発したクォンツ型・AI型のヘッジファンドです。まさに時流の先端を走っており、急成長・急拡大しているヘッジファンドです。

 さらに5位がディストレスの雄・アパルーサ・マネジメントのデビッド・テッパー氏で7億ドル、6位が昨年同額首位だったシタデルのケネス・グリフィン氏で6億ドルと「常連」が続きます。ちなみにグリフィン氏が主宰するシタデルは2016年のパフォーマンスが5%ほどだったようで「たった5%でも6億ドル?」と批判を浴びそうです。

 さらに7位には、エリオット・マネジメントのポール・シンガー氏が5.9億ドルでランクインしています。シンガー氏はなぜか今までランキング上位に入ったことがありませんが、本紙が考える「正真正銘のワル」です。

 この「ワル」というのは決して悪い意味ではなく、絶対に不可能と思える相手に勝負を仕掛け、時には国家権力まで動員して何年かけても「勝ってしまう」投資手法です。今回のランク入りは、デフォルトしたアルゼンチン国債を捨て値で買い集め、アルゼンチン政府の債務カット要請を頑として受け付けず、債務カットに応じた投資家への支払いを差し止めてまで保有全額を満額償還させてしまいました。24億ドルの収益だったと言われています。

 今回のランクインは、この報酬が遅れて反映されたものと思われます。2014年7月29日付け「アルゼンチンがなぜデフォルトするのか?」に書いてあります。また最近のシンガー氏はサムスン電子の資本再編を攻撃しており、こちらは2016年10月13日付け「正真正銘のワルに狙われたサムスン電子」に書いてあります。

 さて昨年(2016年)は、1位、3位、4位とクォンツ型・AI型ヘッジファンドの主宰者が上位を占めました。たまたまだったかもしれませんが、今後のヘッジファンド業界はますます「人間が頭で考える」から「機械(コンピュータ-)が瞬時に判断する」スタイルに重心が移っていくような気がします。

 投資信託では受け身(Passive)のインデックス運用が主流になりつつありますが、本来はその対極にあるはずのヘッジファンドにクォンツ化・AI化の波が押し寄せると、金融市場の相場変動メカニズムが変ってくる可能性があります。というよりもうすでに変わりつつあるような気がします。

 そんな予兆も感じられる昨年(2016年)のヘッジファンド高額所得者ランキングでした。