ジェフ・ペゾスとイーロン・マスク 2人の新しい錬金術師

 昨日(5月30日)のアマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)の株価は一時1001.2ドルとなり、引け値の996.7ドルで計算しても時価総額が4775億ドル(53兆円)となりました。

 アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフトに次ぐ世界第4位の時価総額となり、フェイスブックバークシャー・ハサウェイと続きます。

 アマゾンはヘッジファンド(D.E.Shaw)でシステム構築を担当していたジェフ・ベゾス(53歳)が1994年に起業したインターネット書店が拡大したもので、1997年5月に18ドルでIPOしています。そこから株式分割を勘案すると株価は490倍になっています。

 またリーマンショック以降だと15倍、2017年初めからでも30%の上昇となっています。

 アマゾンの2017年1~3月期は売り上げが357億ドル、純利益が7億2400万ドル、2016年通年は売り上げが1360億ドル、純利益が24億ドル、2015年通年は売り上げが1070億ドル、純利益が6億ドルとなっています。

 つまり急成長・高収益ではあるものの、ものすごく儲かっている会社でもありません。したがって足元の実績ベースPERが187倍もあり、現金配当は創業以来「無配」のままです。また自社株買いも2016年初めに50億ドルの買い付け枠だけ設定していますが、期限は定めておらず、まだ1株も買っていません。

 じゃあそんなアマゾンがなぜ株式市場で高評価なのかといえば、常に消費者のための利便性を大胆な発想で追及するジェフ・ベゾスの経営哲学が評価されているとしか考えられません。つまり将来のための大胆な投資を控えればいつでも利益を拡大でき、自社株買いも現金配当もいつでもできると考えられていることになります。

 ベゾスはアマゾンから現金報酬をほとんど受け取っておらず(年間8万ドルほどだそうです)、もちろん株式配当もありません。またアマゾンも目先の利益を追求しているとも思えず、自社株買いなど株価対策も行わず、常に休まず拡大を続けていることになります。

 その結果、アマゾンの約17%を所有するベゾスの個人資産は拡大を続け、いずれ世界最大の個人資産になるといわれています。ベゾスは「私は事業家ではなく伝道師だ。しかし時として伝道師の方が儲かる」と言っているようです。

 本誌はジェフ・ベゾスを「新しいタイプの錬金術師」だと考えています。そこで「もっと新しいタイプの錬金術師」と考えるのがイーロン・マスク(45歳)です。

 ベゾスは曲がりなりにも起業したアマゾンを巨大企業に育て、消費者にもそれなりの利便性を提供していますが、イーロン・マスクは「とてつもなく大きい発想で、事業収益を積み上げる前に株式価値を膨らませてしまう錬金術師」となります。

 イーロン・マスク南アフリカ生まれで、18歳の時に米国に移住しています。当時の南アフリカアパルトヘイト(人種差別)で国際的に孤立しており、国民皆兵で自国を防御する必要がありました。18歳のマスクは兵役を逃れるために米国に移住したわけです。現在は米国、カナダ、南アフリカの3重国籍を持ちます。

 スタンフォード大学院で物理学を専攻していましたが、まもなく中退して弟と友人で起業したソフトウェア会社をコンパックに売却し、それを元手にペイパルを立ち上げます。そのペイパルを2002年に15億ドルでイーベイに売却し、マスクは1億6500万ドルを手にします。

 そこで始めたのが宇宙事業(スペースX)、電気自動車(テスラモーターズ)、エネルギー事業(ソーラーシティ)ですが、決して思い付きで手を広げたわけではなさそうです。社会貢献を前面に米国政府(あるいはNASA)から各種援助を引き出せて、何よりも株式市場で大きく夢が広がりそうな事業ばかりに目をつけています。

 その代表がテスラモーターズで、年間生産台数が8万台しかなく、もちろん黒字化の目途が全く立っていないなかで直近の時価総額が570億ドル(6兆円)もあり、生産台数が1000万台近いGMの510億ドルを上回っています。

 この辺も、イーロン・マスクなら「何かもっととんでもない発想で世界の自動車業界の勢力図を変えてくれるのではないか?」など、あまり根拠のない期待感が先行しているとしか考えられません。ちなみにマスクもこれらの会社からほとんど報酬を受け取っていないようです。

 本誌は正直なところ、アマゾンでさえ「ベゾスの錬金術は持続可能なのか?」とやや懐疑的ですが、テスラモーターズともなると「マスクの錬金術は理解不能で、もはやバブル(期待バブル?)でしかない」と考えてしまいます。

 しかしジェフ・ベゾスイーロン・マスクという「2人の新しいタイプの錬金術師」のこれからは、しっかりと注目しておく必要がありそうです。いつかはわかりませんが、それが理解できるような気になったときこそ本格的なバブル崩壊となるはずだからです。