やっぱり差し止まらなかった出光興産の公募増資 創業家に残された方法は?

 7月5日付け「出光興産が公募増資発表 創業家の差し止めに対する裁判所の判断は?」の続きですが、本日(7月18日)に東京地方裁判所創業家の差し止め請求を(予想通り)却下しました。

 東京地方裁判所は「支配権をめぐる争いにおいて出光の経営陣が自らを有利な立場に置くという不当な目的が一応認められる」としたものの「新株発行の主要な目的であるとまでは断定できない」とし、新株発行が「著しく不公正な方法」により行われたものであるとは言えないとの判断を下しました。

 さすがに裁判所も創業家に対しては、その辺の「乗っ取り屋」の請求とは同列に扱わなかったようですが、それでも資金需要を前面に出すと新株発行は差し止まらないものです。

 創業家は同日、東京高等裁判所に即時抗告を申し立てましたが、何しろ新株の払込日が7月20日であるため(注)、東京高等裁判所は明日(7月19日)までに判断しなければなりません。もともと高等裁判所の判断はより保守的であるため、本日の決定が覆ることはありません。

(注)発行IRによると払込日は7月20~26日のいずれかとなっていますが、発行価格決定日の5営業日後ともなっており、発行価格は7月12日に2600円(払い込み価格は2489.36円、差額は証券会社の取り分)と決定されているため20日が払込日となります。

 つまりこのままだと創業家側の持ち株比率が26%ほどとなり、昭和シェル石油との経営統合を承認する株主総会で拒否権が使えず、また経営統合も株式交換となるはずで創業家の持ち株はさらに薄まってしまうことになります。

 それでは創業家側はもう打つ手がないのでしょうか?別に本誌が依頼されているわけではありませんが、以下はほんの「お節介」です。


ポイント その1)

 出光興産は2016年12月19日に、昭和シェル石油の117,761,200株(議決権の31.3%)を1株=1350円でロイヤル・ダッチ・シェルから購入していますが、その日の昭和シェルの株価は1147円でした。つまり時価より1株=203円、総額で239億円も「高く」買っています。

 この分を会社(出光興産)に返還させるべく現経営陣に株主代表訴訟を提起します。もちろんこの昭和シェル石油株の購入には、いろいろな経緯があることはよく理解していますが、そこは無視して「時価より高く購入した」事実だけを強調します。

 実際には株主(ここでは創業家)がまず出光興産の監査役会に訴訟提起を求め、3か月間たっても会社(ここでは出光興産)が行動を起こさなければ、株主が正式に株主代表訴訟を提起できます。

 そんな株主代表訴訟など勝てないだろう?となるかもしれませんが、それは重要ではありません。裁判は長く続くため、出光興産のサラリーマン経営陣にとっては相当のプレッシャーとなるはずです。また訴訟費用も(保険がありますが)自分持ちです。そのプレッシャーが目的です。


ポイント その2)

 今回の新株発行を発表する直前である7月3日の出光興産株の終値は3260円、発行済み株数は1億6000万株なので時価総額が5216億円でした。そして本日(7月18日)の終値は、新株発行が差し止まらなかった影響もあって2646円、時価総額が423億円となり、実に創業家を含む既存株主の株式価値が総額983億円も失われています。

 これを出光興産に損害賠償請求を行います(もちろん保有株式分だけです)。現在の法解釈では、株主の損害賠償請求が認められるのは経営陣に不正があったとき(また不正を知って止めなかったとき)に限られます。

 もちろん新株発行は不正ではありませんが、そこで東京地方裁判所が本日の決定に入れた「不当な目的が認められる」を利用させてもらいます。まあ不正と不当はかなり違い、そんなこと認められないだろう?となりますが、それも重要ではありません。会社が損害賠償を求められたときは、その不正があった経営陣にその分を請求する訴訟を提起するもので、これも出光興産のサラリーマン経営陣に対する相当のプレッシャーとなります。

 ましてやその1)にある昭和シェル石油株を購入した際の1590億円の借入金返済が、今回の新株発行の主要目的となっているはずで(本日の裁判所の決定文にも書いてあります)、その1)とその2)は関連付けられます。

 要はこの2つのプレッシャーを出光興産の経営陣にかけることにより、昭和シェル石油との経営統合を思いとどまらせるわけですが、これだけなら「危なっかしい話」です。

 そこで次が最も重要となります。


ポイント その3)

 それでは昭和シェルはどうすればよいのでしょう?昭和シェル株式ではなく、昭和シェルそのものをどうするのか?です。

 出光興産はすでに昭和シェル石油の議決権の31.3%を保有しています。これをももう少し買い増します。できれば40%超としたいのですが、とりあえず33.4%以上とします(TOBが必要です)。そして遠慮することなく経営陣を送り込み、支配してしまいます。もちろん昭和シェル石油も抵抗するはずで委任状争奪戦となりますが、31.3%をすでに抑えていることは大きいはずです。

 つまり融和的な経営統合ではなく、大株主として昭和シェルを支配してしまいます。ルノー日産自動車の44%(当時)を保有しただけで、日産自動車を見事に食い尽くしてしまいました。これが外国企業にできて日本企業にできないはずがありません。そして同業企業を支配するメリットは大変に大きいはずです。

 つまり創業家は出光興産のサラリーマン経営陣にその1)とその2)のプレッシャーをかけ、その3)に方向転換させればいいだけです。その方が創業家だけでなく、出光興産にとっても出光興産の株主にとってもはるかにプラスが多いはずです。

 出光興産の創業家の皆様におかれましては、どうぞご自由に参考になさってください。